「仕方ないな」

 そう言うとシンちゃんは今日ずっと持っていた袋に手を入れる。

「いきなり使うとはな」

 出したのは傘だったの。

 でもその傘は………

「シンちゃん、その傘アルバイトで使うの?」

 シンちゃんが出した傘はビニール傘でも、男の人が使う傘でもなくて、女の子が使うような傘だったの。

「なんでバイトのを自腹で買わなきゃ行けないんだよ?」

 わたしの質問にシンちゃんは苦笑い。

 そしてシンちゃんはわたしにその傘を差し出す。

「えっ?」

「ほ、ほら、前、傘間違って持ってかれた、ってオレに泣いてきただろ?

 だ、だから、その代わりだ」

「お、覚えてたの?」

「あ、あんだけ、ビービー泣いてたんだから、い、嫌でも頭に残るだろ!」

 どもりながら言うシンちゃん。

 もちろんこれはシンちゃんがわたしが言ったことをずっと気に掛けていてくれたってこと。

 そのことだけでもすっごく嬉しいのにわざわざ買ってきてくれるなんて………。



「ありがとう、シンちゃん」

 わたしは差し出された傘を大事に大事に受け取る。

「よし、これで駅まで行けるな」

「うん! はい、シンちゃんも入って」

「いや、オレはいいって、ていうか無理だろ」

 シンちゃんの言う通りこの傘は可愛い変わりに少し小さくて、二人並んでは傘に入れない。

 でもそんなのカンケーねえ!

「だったら、ぴったりくっついて歩こ、ね?」

 本当はシンちゃんは風邪を引かない体質だから、雨に濡れても平気なんだって。

 でもそれでもやっぱし心配だし、それになによりこうしたらもっとシンちゃんを感じられるから。

「い、いや、それは………」

「だ、だめかな?」

 わたしのお願いにシンちゃんは頭をがしがしと掻く。

「分かった、分かった! つ、つかさが、どうしてもって言うんなら、い、一緒に入って、や、やるさ!」

「ありがとう」



 そしてわたしたちはぴったり寄り添って小さな傘をお互いの手で支え合って駅まで歩き出す。



 わたしの彼はとっても照れ屋さんでとっても優しい人





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