雪は苦手だ。特に1人で見る雪は。



 思い出すから、自分がいかに無力だったかを

 思い出すから何も守れなかった事を

 大勢の人どころか1人の少女すら守れなかった事を



「参ったな………」

 電車に乗る前は何事もなく晴れていた。だが駅に着くとオレを出迎えたのがコイツらだった。

 待ち合わせ場所のハチ公前まで目と鼻の先だ。だがオレは歩く気が全く起きないでいた。

 つかさはまだ来てないだろうから、ここで待っておけばつかさに会える。そう都合の良い事を考えている自分にハラが立つ。

 つかさがハチこう前で待ってみたい、そんな望みから今日の待ち合わせ場所は決まった。

 そんな小さな望みすらオレは叶えてやる事が出来ないのか………?



「シンちゃん」



 オレの耳につかさの声が聞こえる。

 ここで待っててもつかさはやってこない。どこまで都合の良い事を考えてるんだオレは!! 早く待ち合わせ場所に――



「シンちゃん」

 その言葉とともに今度は抱きしめられる感覚を感じる。

 ふと目線を下げるとそこには白い服を着た、綺麗な雪の精を思わせる、つかさがいた。

「シンちゃんごめんね。そんな顔しないで」

 それだけ言うとつかさはオレの唇に自分の唇を重ねてきた。



「わたしにはこれくらいしか出来ないから」

 唇を離してからつかさは真剣な顔でオレを見つめてくる。

「なんでお前が謝るんだよ?」

「だってわたしがここで待ち合わせしよう、って言わなかったらシンちゃんはそんな顔しなくてよかったのに………」

 言ったつかさの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。



 日頃オレはつかさを守るとかなんとか威勢のいい事を言ってるが、肝心なところではつかさに守られている。ヘタレもいいところだ。

 だけど………。

「悪いのはオレだ。つかさには笑顔でいて欲しいのにこんな顔させるなんて」

 ヘタレでも何でもいい、オレはつかさを守りたいし、失いたくない。

「つかさ、オレはもう大丈夫だから」

 オレはつかさを抱きしめる。つかさは頷く変わりにオレを抱きしめる力を強くする。

「行こうぜつかさ」

 オレはつかさの頭をなでながら囁く。

「どこへ?」

 つかさが上目遣いで尋ねてくる。

「ハチ公前。そこでの待ち合わせが夢だったんだろ?」

「そんなのもういいよー」

「オレにもカッコつけさせてくれよ」

「シンちゃんはいつもかっこいいよ〜」

 オレのワザと気取ったポーズにつかさは噴出すことなく、いつもの優しい笑みを向けてくる。

 この笑顔をずっと見ておきたいから。



「行こうぜ!」

「うん!」

 オレ達は指を絡ませながら、人ごみに入っていった。





〜 F i n 〜   






戻る        別の日常を見る