『エンディング』
1
「オレが知るかよ」
尋ねられた事にオレは小さく、吐き捨てる様に答える。
「はっ?」
真っ先に声を上げたのはかがみで、その目がいつも以上に釣り上がる。
その理由はオレの返答が予想とは違い、かなり不可解かつ不愉快なものだったからだろう。
だけどオレとしては今はそんな事は問題じゃなかった。
「知るかよって言ったんだ!! 自分の事くらい自分で決めろよな!!」
今度は4人によく聞こえる様に言うと、オレは鞄を持って立ち上がる。
「ちょっと!? どこ行く気よ!?」
「ふける」
オレは短く言うと、教室のドアを乱暴に閉めた。
どうせ今の時期は卒業式まで自由登校だ。帰っても問題ないだろう
というか、こんな気持ちで授業なんて受けれるもんか!!
オレは振り払うかの様に廊下を走った。
事の起こりは授業間の休み時間に、いつもの様に5人でだべっている時だった。
いきなりあいつが、悩みがあると切り出してきた。
最初はオレも他の3人と一緒でそいつの力になるつもりだった。
だけど話を聞いている内に、オレは怒りにも似た感情が生まれてきていた。
そいつの悩みはラブレターを貰った、という事だった。しかも複数人から。
本人は彼氏なんて出来ない、っと言ってたけど、その容姿、性格からもクラスの男子からは密かにだけど人気があった。
しかもそいつはバレンタインの日に男女関係なくクラス全員にチョコを渡していた。
そいつの性格からして、どうせ最後だからと感謝の意味を込めて律儀に作ったんだろう。
そしてそのチョコを何人かの男子が本命と勘違いしたんだろうというのが、かがみ達が出した推論だった。
そんな勘違いしたやつからのなんて速攻で断ればいいのに、そいつときたら…思い出しただけで腹が立ってくる。
ウジウジと悩みやがって。
どうせせっかく告白してきてくれたのに断るのは悪いと、お人好しなことを考えてるんだろう。
そいつの人の良さは異常だ。……だけどその優しさにオレが救われてきたのは事実だ。
そして出来ればそいつはオレの隣りにいて欲しい
「……分かってるよ………」
本当はこの怒りの正体も分かってる。
そいつがオレの側から消えて別の男子と付き合い、あの優しい笑顔がオレに向けられることがなくなるという、恐怖という名の嫉妬。
「クソッ!」
オレは途中で買った缶コーヒーの缶を片手で潰す。
この世界の人間では有り得ない力を持っているオレに、そいつは驚きながらも尊敬の目で見てくれていた。
そしていつもそこには笑顔があった。