『空気読まねども』
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「シン知ってるか?」
「何をだよ?」
見ている番組がCMに変わると同時に、こなたがやたら気取ったポーズで声を掛けてくる。
「死神はリンゴしか食べない」
「…………」
ポーズをつけたままのこなたに一瞥だけをあげて、オレはチャンネルを回す。
「……って、ちょっ!? 無視!?」
「他にないだろ」
かがみあたりなら律儀に何か一言返すんだろうけど、あいにくオレはそんなに優しくない
というか、いい加減に分からないネタを振ってくるのはやめろと言いたい
まあ言っても無駄なのは、これまでの短くはない共同生活で分かっていることなんだけどな
「で、なんだよ?」
「へっ?」
「何か言いたいことがあるんだろ?」
これも今までの経験から。一応今の唐突な会話の中でも、こなたの中ではちゃんと流れがあるらしい。
こういうのが分かってきたということは、こなた達から呼ばれている『空気の読めない男』の称号を返上する日は近いだろう。
「10月25日」
「で? なんだよ?」
さっきと同じ言葉をオレはこなたに返す。
この世界に来てたかだか半年。どの日がどんな意味の日なんか分かるはずがない。
「みゆきさんの誕生日」
「あ〜、で、それがどうした?」
オレのこの質問にこなたは『こいつ、分かってねぇー』という顔でオレを見てくる。
こなたの人をおちょくった態度には、さんざんキレているオレだが、今の顔はベスト3に入るくらいムカつく。
「なんだよ!?」
しかしオレの剣幕にもこなたは怯む様子すら見せず、むしろ指を左右に振るという余計にムカつき度が上がる行動を取る。
「異性の誕生日にはプレゼント、フラゲの基本だよ〜」
「その基本はゲームのだろ!」
頭痛を覚える頭を抑えながら、オレはこなたに反論する。
自分の基準が他の人間も一緒じゃないということをいい加減に分かれよな
とはいえ、そんなことを言えば『お前がいうな』と返されるのは目に見えてる。
それが分かってるけど、反撃の手が他に思いつかないのがまた悔しい。
「まあそこは置いとくとしてさ、みゆきさんにはお世話になってるのは本当じゃん
いい機会だしお礼をしたらどうよ?」
「うっ………」
こればっかりは反論のしようがない
みゆきさんには学校に入ってから迷惑を掛けっぱなしで、何一つとして返せてもいない。
ただこれで簡単に首を縦に振っちまうとこなたに踊らされっぱなしだ。そんなのはいくらなんでも悔しすぎる。
「まっ、気が向いたら渡すさ」
オレの言葉になぜか、こなたは笑いを堪えた顔をしたのだった。