『銃と花火』





「すみません、お待たせいたしました」

 チャイムを鳴らして数分の間を空けて、ドアからみゆきが出てくる。

 みゆきの格好はいつもの嫌味のないセンスのある洋服とは違い、この世界のこの国で昔からあるものだった。



 わざわざみゆきがこんな格好をしてる理由は1つ、今日はオレ達2人のデートの場所がお祭りだからだ。



「あの、似合いませんか?」

 奇異な眼差しを向けていたオレの視線に気付いたみゆきが、おずおずと尋ねてくる。

「そんなわけないだろ」

 みゆきが着ている浴衣というものは日常的に目にするのが珍しい事もあってか、着て入る女の子を綺麗に見せる効果があるようだ

 しかもみゆきは美女といっても言いすぎではない容姿、これらが合わさって似合ってない訳がない



「その、と、とっても綺麗だぞ、みゆき」

 さすがに付き合っているとはいえ、面と向かっては恥ずかしすぎるので視線を外しながら言う。

 その態度が可笑しかったのか、クスクスと笑うみゆき。

「な、なんだよ?」

「いえ、すみません

 ですが、去年も一昨年も祭りの時にそんな事は言ってくださらなかったので」

「そ、そん時はまだ付き合ってなかったし、だな………」

 イマイチ言い訳になっていない気もするけど、高校時代のオレとみゆきとは親友というか仲間というか、

そんな関係だったので恋愛対象としてみゆきを全くというわけではないけれど、意識していなかった



「うふふ、そうですね」

 オレの発言にも怒った様子もなく、微笑むみゆき。

 その微笑みはオレの全て、といってもいい

 そして出来ればその微笑みがずっとオレに向けてくれる事を



「では行きましょうか」

「ああ」

 オレが肘を出すと、みゆきがそこにそっと腕を絡ませてくる。

 抱きつくのではなく、寄り添う

 それだけでオレの心はざわめき立つ。

 みゆきに触れるそれだけの事で



 まだ祭りに行くにはこれから駅に行って、電車に乗るっていうのに、オレの中では祭りはもう始まっていた





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