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「ほら」
「ありがとうございます」
オレの差し出したコーヒーの入ったカップをみゆきは両手で持つ。
「どうしたんだ? 朝になったら呼びに行くのに………」
いくら別荘とテントが近いとはいえ、夜、山の中に出歩くなんて…人がいるとは思えないが、動物に襲われる可能性だってある。
それが分からないみゆきじゃないはずだが………。
「す、すみません! 寝ようとはしたのですが…お恥ずかしながら………」
「心細かったのか?」
オレの言葉にみゆきが頷く。
そう言えばオレも最初1人の時は寝付けなかったな。
みゆきにとっては初めての1人っきりが山の中の広い家では怖くて寝られないのも無理もないといえる。
「じゃあ、ここで寝るか?」
「別荘の方にはやはり来られないのですか?」
「ワルイな。そればっかりは無理だ」
「そうですか…ならば仕方ありません」
何が納得したのか、みゆきは頷く。
「私もここで寝させてもらいます」
「冗談だったんだけど、……マジか?」
「……はい…といいますか…シンさんの…姿を見ると…安心して………」
そのまま寝息を立てるみゆき。
「オ、オイ!? …ったく」
オレは頭をかくとみゆきに用意していたタオルケットを数枚重ねる。
男の隣で寝るか普通?
かがみといい、みゆきといいオレを信頼しすぎじゃないか?
だけどその信頼が嬉しくないわけない。
今度こそ守らなけばいけない。
それは重いけど、手放したくないもの。
もう2度と手に入らないと思ってたもの。
オレは寝ているみゆきの眼鏡を外して近くに置く。
徹夜の見張りは堪えるが、カンは冴える。
シチュエーション的にはこの上もない状況だ。
予定していた訓練は実戦になった。
〜 f i n 〜