『山に行こう』
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G.W.それはこの時期の映画館の入場者数が増加することから名づけられた、業界用語、との事らしいです。
ですが今では一般に浸透しており、この期間を楽しみにしている方は多いと思います。
勿論、私もその一人です。想いをはせる人とどこかへ行けたら…そんな事を思っています。
不思議ですね。去年はそんなこと考えもしなかったのですが…あの方と出会って、少しの間でも一緒にいたい。
そんな思いがカレンダーを見るたびに募っていきます。
「はぁー」
ですが、現実は厳しいものです。あの方に想いをはせるのは私だけではないのです。
泉さん、つかささん、かがみさん。私は親友の人達と同じ人を好きになってしまいました…ですが、後悔はしていません。
それは皆さんも一緒だと思います。何故なら、何よりあの方が幸せになって下さればいいのですから………。
だからといって私は皆さんに負ける気はありません。
自分の気持ちに正直に生きる、それが皆さんが私に教えって下さった事なのですから。
だから、このG.W.はチャンスのハズなのです。
「はぁー」
私は再び溜め息を吐きます。
チャンスのはずなのですが、今の私にはあの方をお誘いする口実がありません。
泉さんの様に一緒の家に住んでいる、かがみさんやつかささんの様に家が近いというなら、
気兼ねなく行くことも出来るかもしれないのですが、私の家は遠く、理由を作らないと、とてもあの方のところには行けません。
もっとも一番の原因は確固たる理由がないと誘えない私なのでしょうが………。
「みゆきちゃーん」
リビングから聞こえるお母さんの声。この猫なで声は用事がある時によく出すのですが…。
私はあの方の事をひとまず置いて、リビングに向かいました。
「お母さんどうかしましたか?」
「みゆきちゃん、お願いがあるんだけど」
「はい?」
「実はね、親戚の人が別荘の様子を見て来てくれないかって頼んできたのよ。
別に掃除とかはしなくていいんだけど、設備が使えるか見てきて欲しいんだって。
日替わりで帰ってこれるし、G.W.にお願いだからみゆきちゃん行ってきて〜」
「それは構いませんが、お母さんは行かれないのですか?」
「だってそこ山なのよ〜疲れるじゃない〜?」
我が家の『姉』がとても嫌そうに答えます。こうなると、何を言っても行かない人ですから………。
「……ま、待ってください! という事は私一人で行くのですか?」
ライバルの皆さんがあの方と仲を進展するかもしれないのに、G.W.に私一人でそんなとこに行ったら、ますます………。
「みゆき、何言ってるの? シンくんがいるじゃない〜」
「あっ!」
お母さんの言葉に私は思わず声を上げます。
そうです。これであの方を誘う口実が出来ます。
「お母さんありがとうございます、私行きます」
「あら〜わたしはお礼を言われることしてないわよ。むしろ、行ってくれるわたしがお礼をしないといけないんだけどね〜じゃあ、よろしくね」
そう言うとお母さんはテレビの方を向かれました。
私はそんなお母さんにもう一度頭を下げて、電話の方に向かいました。
「あっ、そうです。皆さんと折衷案を話さないと」
予定が潰しあいになってしまったら、意味はありません。だからこういう時私達はお互いのスケジュールを確認するのです。
ですがこのことを他の人に話すと、おかしい、とのことです。