『駆け引き戦線』
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大学生の義務ともいえるテスト・レポートが無事に終わり、これからは夏休み。
4年生になれば卒業論文や就活がある為、今年がこうやってのんびりできる夏休みの最後かもしれない。
そう考えると、こうやって家でくつろいでるのは、もったいない気がしないでもないが、
取りあえず今はテストとレポートの疲れを取る事が大事だ。
「どうかしましたか?」
「なんでもない」
彼女であるみゆきの質問にオレはかぶりを振る。
それにこうやってみゆきと一緒にいられるのだから、損な事はしていない。
「そうですか」
頷くと再びみゆきは大好きな読書へと戻っていく。
軽い沈黙が再び生まれる。
だけどそれは苦じゃない
オレもだけど、みゆきも同じ学年の女の子に比べるとおしゃべりではない。
だからといって間がもたないという事は一切ないし、オレ達はこうして長く交際が続いている。
側にいてくれるだけでいい存在
一言で言うとそんな感じ
だけど今日ばかりは違う、オレは非常にこの沈黙が痛い。
それにはもちろん理由がある。
「なあ、みゆき」
「はい?」
ただその理由を話さないという選択肢はない。
「そっちのゼミは旅行行くのか?」
「はい、私達は春休みに行く予定ですね、シンさんの方は夏休みでしたか?」
さすがみゆき、オレよりもオレのゼミに詳しい。
みゆきは学部内で有名人、容姿端麗・品行方正、教授連中からも信頼が厚い。
その為様々な情報が勝手に入ってくるそうだ。
ちなみにその情報の中には何故オレとみゆきが付き合ってるのか? というのが多く入ってくるらしいが、全く余計なお世話だ
「実はその日付なんだけど………、毎年オレ達が旅行に行く日なんだよ………」
医学部なんていう学部のせいかもしれないけど同じ大学生と思えないくらい、こなたと違ってオレもみゆきも夏休みは忙しい。
それでも毎年、その日だけはなんとか調整をしてみゆきと二人で旅行に行っているのだが………
もちろんそんな一大イベントをこのまま流すつもりはオレはない。
バイトを減らしての日程調整という最終手段を取るつもりだ。
「そうですか、楽しんで行って来て下さいね」
しかしそれを提案する前にみゆきはいつもと変わらない悠然ともいえる笑みをオレに向けてくる。
怒ってはいない、みゆきが怒ったらこんなものじゃない、文字通りエアコンなんて必要としない。
ただ逆にそれが気に食わない
みゆきの事だからオレの日頃の行いから、ゼミ旅行に顔出しておかないってのは分かってるんだろう。
ただそれでもやっぱり気に食わない
1年に1回の旅行が潰れたんだ、それにゼミ旅行には他の女の子だって参加する。
もうちょっとリアクションを取ってくれてもいいんじゃないか
オレは見くびられているんだろうか?
そりゃ、みゆきにベタぼれなのは自他共に認めることではあるけども
たまにはオレが手綱を握ってもいいんじゃないか?
こうしてオレは自身の面子の為に戦線を開く事を心の中で宣言した。