『秋深し』
1
時刻は昼を少し回ったってところだろうか
視界にはたくさんの人が入ってくるけど、皆進む先はバラバラ。
これから帰ろうとする奴、立ち止まって話してる奴、講義に向う奴。
大学に入ってまず驚いたのは、高校時代に比べると自由な時間が増えたということだった。
これは大学の近くで一人暮らしを始めたってのもあるけど、半ば強制的に勉強しなくてすんだからだろう。
普通は上の段階を学ぶ為に進むんだからより忙しくなる気がするけど、どうやらこの世界での教育は違うらしい。
まあ国によって違うのかもしれないけど
とはいえ今の生活は元にいた世界のアカデミーと似ていて、オレの性には合ってるから、歓迎すべきところだ。
「シンさん、掲示板を背にするのはいかがかと」
苦笑が混じった声の方を振り向く。そこには待ち人の姿。
「何か有益な情報が出ているかもしれませんよ」
落ち着いた口調と物腰から上級生と思われがちだけど、れっきとした大学1年生でオレと同い年だ。
最もそれを言うのは禁句だが
「大丈夫だ、問題ない」
「そうですか?」
「何か貼ってあったら、オレの彼女が伝えてくれるからな」
「まあ」
片目を瞑って言ったオレの返しにも少女は呆れた様子も、ましてや怒った様子をみせることもなく微笑を浮かべる。
「悪い人ですね」
微笑みを笑みに変えてオレの彼女、みゆきはそう答えた。