「……それに言いました、飛びこめって」

「よく聞こえてたなあの場面で」

 先輩は凄い速さで私の対面に回り込み、私が飛び込むと同時にそれを叫んだ。

 でも私は―――



「送るぞみなみ」

「……いえ、大丈夫です」

「でもどっかケガしてるかもしれないし」

「こんな格好の女の子を送ったら先輩が疑われます」

「うっ………」

 私はさっきの一件でストッキングの所々に穴が空き、肌が露出していた。

 心ない人がそんな様子の私と、鋭い印象を持つ先輩を見たらどう思うだろうか



「オレは構わないぞ!」

「大切な人を泣かせないで下さい」

「うっ………」

 先ほど言われた言葉を先輩に返す。

 ゆたかだけじゃない、みゆきさんも心配させてしまう



「じゃあズボンだけでも………」

「……先輩は、どう帰るんですか?」

 ここまでくるとさっきの男の子とまるで変わらない。

 駄々っ子。ただそんな泣きそうな顔が皆の母性反応をくすぐるのかもしれない。



 ……胸のない私には、それがないのかもしれないけど………



「分かった、気を付けろよ。

 帰ったら絶対ゆたかかオレにメールしろ、いいな?」

 私は小さく頷くと駅の方へと歩いていく。

 これほどまでに先輩がお節介とは思わなかった。

 ただあまり悪い気がしないのはなぜだろう



 実は私は言われるまでもなく先輩の方へ飛び込むつもりだった。

 実際には先輩の言葉は聞こえず言ったのは当てずっぽう。

 それでも私は先輩に飛び込んだ。



 この人ならきっと大丈夫、どうにかしてくれる



 なぜかそんな信頼感が先輩にはある。



「……なるほど」



 少し分かった気がする。

 みゆきさんを含め素晴らしい先輩達やゆたかが、あの無神経な先輩に惹かれる訳が

 でも、私はまだそこまでは言っていない。

 そう私はあくまで監視者。あの人がみゆきさんやゆたかを泣かせない行動を取るのを監視する―――



「あれ〜みなみちゃん、どうしたのそのカッコ?顔まで赤らめて」

「……え?」

 振り向くとそこには見知った人の顔。

 嫌いではないむしろ、好意を寄せているけど、その人は私の天敵。



 上手い言い訳を見つけないと、恐ろしいことになってしまう





「……先ほど、派手に転んでしまいまして………」



 結局私はその人に笑われてしまうことになった。





〜 f i n 〜   







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