もしも私のせいで二人が気まずくなっていたらどうしょう………。

 私は校門に背を預けてそんなことばかり考えていた。

 上級生と帰るというのは私がついた咄嗟の。

 あのまま二人と帰ったら私のせいで気まずくなっていただろうから………。

 先輩の事は小早川さんから聞いていたけど、今日初めて会ってみて分かった。

 アスカ先輩は小早川さんをとても大事にしている、まるで本当の妹の様に。

 そして小早川さんも先輩をとても慕っているのが、今日の二人の会話からも理解出来た。

 そんな人に私はなんて失礼な事をしてしまったんだろう…小早川さんはやはり私を怒っているのだろうか………。

 ひょっとしたら小早川さんは明日から私と口を聞いてくれないかも………。



 嫌だ…怖い………。



 私は知らず知らずの内に自分を抱きしめていた………。



「いたいた。オーイー!!」

 声のする方を見てみると、先輩が少し遠くで手を振りながら走って来ていた。

「よかった、まだいて」

「……先輩、どうかしたんですか? それに小早川さんは?」

 まさか先輩に限って小早川さんを一人で帰したりはしないと思うけど………。



「ゆたかは駅の待合室で待ってる。オレはこれを渡しに来たんだ」

 そう言って走って来たのに息切れ一つしてない先輩は私にノートを差し出す。

「……これ、私の…わざわざ届けに来て下さったんですか?」

「ゆたかが今にも泣きそうだったからな」

 その光景を思い出したのか、先輩は苦笑しながら肩をすくめる。

 でもその様子は小早川さんを馬鹿にしてる様にはとても見えない。

 本当に仲が良いと思う反面、罪悪感が再び私を襲う。



「……すみません、ご迷惑をお掛けしました。

 ……それにさっきも本当に………」

「いいって。それにさっきので安心したよ」

「えっ? ………」

「キミなら安心してゆたかの事を頼める。

 こなたもオレも同じ学年じゃないし、そばにずっとついててやれないしな。でもキミが近くにいるだけでオレ達は安心出来るよ」

「そ、そんな………」

 今の先輩の言葉から、小早川さんも先輩も私の事を怒ってはいない。それどころか私に小早川さんの事を頼んでいる。

「でも、いくらゆたかを守るためだからって無茶はしないでくれよ。

 それでキミが困ったら悲しむのはゆたかなんだからな」

「で、ですが………」

「どうしても困ったらオレに相談してくれ。ある程度の事は解決して見せるから」

「……はい………」

 先輩の顔を見ると私は思わず頷いていた。

 この人は社交辞令とかで言ってるんじゃない。決意の色が強く出ている………。

 先輩とは年齢がそんなに離れていないはずなのに、凄く大人に見える。

 なるほど。小早川さんが先輩を慕っている理由が分かった気がする………。



「おっと、ゆたかを待たせてたんだ!

 えーっと、みなみ、でいいよな?」

 先輩の問いかけに私は頷く。

「あっ、オレの事もシンでいいから。

 じゃあな、みなみ!」

「はい…シン先輩もお気を付けて………」

 私の言葉に先輩は笑って頷くと走って行った。





「みなみさん、今からお帰りですか?」

 振り向くと、私の幼い時からの姉代わりであるみゆきさんがいつもの微笑みを浮かべて立っていた。

「それに先程お話していた方はシンさんですか?」

「えっ?」

 みゆきさんから先輩の名前が出て私は驚きの声を出す。

 そんな私の変化に構わず、みゆきさんは続ける。



「同じクラスなんですよ…それに私の大事な人なんです」

 みゆきさんはにっこりと微笑む。

 その笑顔はいつもよりも嬉しそう。

 大事な、というのは友達としてだろうか?…それとも………。

 みゆきさんの頬が少し赤みを増しているのは、夕日に当たっているからだろうか………。

「あっ、すみません! 私の事ばかり………。

 みなみさんはどうですか?」

「えっ………?」

「ああいった方は少し苦手ですか?」

 確かに私の周りにはああいう人はいなかった。

 それに初対面の印象はお互い最悪に近い感じの出会いだった。

 でも………。

 私は視線をみゆきさんからシン先輩が走って行った方向を移す。

「……嫌いじゃないです…ああいう人………」





 それが私とシン・アスカの出会いだった………。





〜 f i n 〜   






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