『突っ走る女と困惑する瞳』





「お〜いシン、ゲームしよ、ゲーム」



 こんこん



 うだるような暑さの中、一時間も宿題と受験勉強に費やしたわたしは、自分へのご褒美タイムとして奇妙な同居人シン・アスカとのゲームを望んだのである。

「あ〜ちょっと待てな」

「はあ?」

 珍しくノックをして部屋の前で返答を待ってたわたしに、なんとも微妙な返しをするシン。

 言葉的には、だが断る、ではないみたいだけど………



 がちゃ



「何してるのシ…ン?」

 ドアを開けて、部屋に入ったわたしを待っていたのは変わったスーツを着た人物だった。

 スーツといっても、会社ではなく宇宙で着るみたいな恰好のもので、街中で会ったら確実に事案である。

 といってもここはわたしの家だし、赤色のメット、胸元にあるエンブレム、そして何よりバイザーから覗く見知った顔から、不審者ではないと確信している。



「何してるの、シン?」

 さっき途切れた言葉を改めて出す。

 この格好してるシンなんて、最初に家に跳んできた時(比喩なし!)を合わせても数回しかない。

「たまには着とかないと傷むしな」

 シンの当然とばかりの答え。

 確かにスーツは少し汚れてるとはいえ、押し込まれて置いてあった感じはしない。

 きっとわたしが知らないとこで何回も着ているんだろう。



「いや〜驚いたよ、てっきり元の世界に帰れる方法を発見したかと」

「…………」

 シンは何も言わず、視線を斜め下に向ける。

 スーツを着てるからその行動は、えらく機械的に感じる。

「……シン?」

 バイザーが影になってシンの表情が見えない。



 ――まさか――



 嫌な予感に、冷たい汗が流れる。

 いや、シンにとっては喜ばしいことなのかもしれない。

 だけど、私、いや私達にとっては――



「なんてな! そんなの発見してたらとっくにお前達に言ってるだろ」

 バイザーをあげて、笑うシン。

 表情を隠してたとはいえ、シンにしてはなかなかやってくれる!

「いや〜残念だよ、今度こそスーパーコーディネーターと大恩ある先輩を倒してくると思ったんだけど!」

「アンタ絶対そんなこと思ってないだろ!」

「ソンナコトナイヨオモッテルヨ」

 まあシンの言う通り『そんなこと』思ってないよ。

 誰かを倒してるシンも倒されてるシンも見たくない



「まあいいや、ちょっと暇してるなら手伝ってくれ」

「何するの?」

「いつでも使えるように耐久テストだ」

 笑いつつも真剣なシンの顔を見て私の胸は痛んだ。



別の日常を見る        進める