『突っ走る女と困惑する瞳』
1
「お〜いシン、ゲームしよ、ゲーム」
こんこん
うだるような暑さの中、一時間も宿題と受験勉強に費やしたわたしは、自分へのご褒美タイムとして奇妙な同居人シン・アスカとのゲームを望んだのである。
「あ〜ちょっと待てな」
「はあ?」
珍しくノックをして部屋の前で返答を待ってたわたしに、なんとも微妙な返しをするシン。
言葉的には、だが断る、ではないみたいだけど………
がちゃ
「何してるのシ…ン?」
ドアを開けて、部屋に入ったわたしを待っていたのは変わったスーツを着た人物だった。
スーツといっても、会社ではなく宇宙で着るみたいな恰好のもので、街中で会ったら確実に事案である。
といってもここはわたしの家だし、赤色のメット、胸元にあるエンブレム、そして何よりバイザーから覗く見知った顔から、不審者ではないと確信している。
「何してるの、シン?」
さっき途切れた言葉を改めて出す。
この格好してるシンなんて、最初に家に跳んできた時(比喩なし!)を合わせても数回しかない。
「たまには着とかないと傷むしな」
シンの当然とばかりの答え。
確かにスーツは少し汚れてるとはいえ、押し込まれて置いてあった感じはしない。
きっとわたしが知らないとこで何回も着ているんだろう。
「いや〜驚いたよ、てっきり元の世界に帰れる方法を発見したかと」
「…………」
シンは何も言わず、視線を斜め下に向ける。
スーツを着てるからその行動は、えらく機械的に感じる。
「……シン?」
バイザーが影になってシンの表情が見えない。
――まさか――
嫌な予感に、冷たい汗が流れる。
いや、シンにとっては喜ばしいことなのかもしれない。
だけど、私、いや私達にとっては――
「なんてな! そんなの発見してたらとっくにお前達に言ってるだろ」
バイザーをあげて、笑うシン。
表情を隠してたとはいえ、シンにしてはなかなかやってくれる!
「いや〜残念だよ、今度こそスーパーコーディネーターと大恩ある先輩を倒してくると思ったんだけど!」
「アンタ絶対そんなこと思ってないだろ!」
「ソンナコトナイヨオモッテルヨ」
まあシンの言う通り『そんなこと』思ってないよ。
誰かを倒してるシンも倒されてるシンも見たくない
「まあいいや、ちょっと暇してるなら手伝ってくれ」
「何するの?」
「いつでも使えるように耐久テストだ」
笑いつつも真剣なシンの顔を見て私の胸は痛んだ。