『逆襲のこなた』
1
ぼすっ
学生鞄をいつもの場所に置いて、わたしはベッドにダイブする。
別に眠いってわけじゃない、授業中に睡眠はばっちり取った。それこそ今から深夜までクエストできるくらいに
「……危機だ」
枕に顔を埋めつつ呟く。
危機というのは、受験勉強、のことじゃない
大学はどうにかなるだろうという、かがみが聞けば怒りだしそうな心境にもはや達している。
実際にわたしが志望するのはそんなに難しい大学じゃないし
「……危機だ」
今度は顔を上げて呟く。
ではなにがというと、ある意味では受験よりも大事なもの、恋愛というものについて
わたしや親友であるつかさ、かがみやみゆきさんは異世界からの来訪者シンを取り合っての聖戦の真っ最中。
戦況の行方は依然として見えていないはずだった。
ところが先日とある事件が起きた。
かがみ、みゆきさんに次いでつかさがシンの過去を知ったのだ。
それは友人という観点で見れば大変嬉しいこと、だけどライバル的にはまずいこと
いわば三人はヒーロ物でいえば、パワーアップイベントを無事消化したことになる。
もちろんそのイベントの効果は絶大で、シンと三人の仲は出会い始めなんかとは比べ物にならないくらいに良くなった。
それこそプレイヤー視点で見れば、もうハーレムエンドでいいよ、ってな感じに
しかし、そう、しかしなのだ!
わたしにはそのイベントが起きないのだ
なぜならわたしはシンの過去をすでに知っていたから
ある作品をリアルタイムで見ていたことによって
この効果は最初わたしに優位に働いた。
シンの過去を知ってるのはわたしだけだったから、シンの相談に一人だけ乗ることができたし、
わたしだけが知ってるということで、ライバル達よりも精神的に優位に立てた。
だけどそれももはや無くなった。
そして優位の消失は、性格や可愛らしさで劣る私に、ライバル達から一歩も二歩も遅れを取ることを意味している。
オタクとして過ごしてきたか、女子としての生活を過ごしてきたか、中学生活の差が出てきてしまっている。
武器もスキルもそしてイベントもない
完全に積んでしまっている
勝ち目がない
なら諦めるのか?
「うっ………」
そう思うたびに胸が苦しくなる。
「……諦められるわけないじゃん………」
諦めるにはこの恋愛というものに私ははまり過ぎていた。
でもどうしていいのかが分からない
私が一番近いはずなのに
「……シン………」
私が一番遠い