『Over Time』





 普段滅多にしないお父さんを玄関までの見送り。

 別にお父さんが名残惜しいわけではない。その逆で、ゲームをして待っていても待ちきれなくなったからだ。



「いってらっしゃ〜い」



 ばたん

 がちゃ



 お父さんが外から鍵を掛けたのと同時に、わたしは駆け出す。目的地は異世界からの同居人兼恋人のシンの部屋。

 わたしはノックを兼ねてシンの部屋のドアを開け突入する。



「シーン――わふっ!?」

 部屋へ入ったわたしは思いっきりQKA(急にクッションがあった)で頭から突っ込むはめになってしまった。

 いくらわたしの背が小さかろうが床においてあるはずのクッションに当たるわけがない。

シンがわざわざドアの前でクッションを持って待ち構えていたのだ。



「予想通りやっぱり来たか」

「いいね〜ちゃんと恋人同士シンクロしてるじゃん♪」

「お前めげないな………」

 呆れた声をだすシンだけど頭から突っ込んだわたしを、ちゃんと抱きとめてくれているのだ。

 その距離は会話するのにいい位置だし、何より心地が良い。ちょっとまだ残暑が厳しいけど。



「で、何の用だよ?」

「シン、今日誕生日でしょ、だったらやることは決まってるでしょ?」

 わたしの彼女らしい可愛いそぶりにシンは心奪われたのか、抱きしめていた手を放し、二歩後ろに下がり曰く

「こなたがそんなことを覚えているだと………?」

「シン屋上」

 あまりすぎる言葉にわたしはクッションを投げつける。

 まあ去年のクリスマス以来それっぽいイベントをすっぽかしたから、シンが期待してなかったのも分かるけど………。



「今までに溜まった分今日まとめて返したげるよ☆」

「ほんとかよ!?」

 シンが珍しくテンションをあげる。

 日頃興味なさそうにしてるけど、やっぱり嬉しいらしい。

 わたしは大きく頷き、シンの手を引く。

 目指す場所は台所。



「部屋で待ってたら駄目なのか?」

「うん、だってまだ作ってないから」

「今から作るのか?」

「うん、そうだよ」



 わたしの言葉にシンはきょとんとした顔で台所に入った。





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