『今できること』





 慌ただしく階段を駆け上がる音を耳が捉える。

 朝から不快だ



「うおーっ、本気でわたしに遅刻しなさいってか!?」

 足音の主、泉こなたが騒がしくリビングに入ってくるが、オレはそっちを見る気にもならない。

 もちろんこれは………、毎度のことだから



「なんで、どうして、シンは起こしてくれないの!?」

「オレはアンタの目覚ましじゃない!」

 オレはこなたに吐き捨てる。

 こっちがいくら朝早くに起きるからって、それを利用しようなんて虫が良すぎる



「じゃあ、アッシーくん。わたしをおぶってって」

 最もそんなのがコイツに聞かないのは分かってる。

 だからそこが余計にオレをイラつかせる。

「早く行けよ! 時間がないんだろ!!」

「おぉ………」

 さすがにオレの気迫に圧倒されたのか、こなたは渋い顔して、立ったまま朝飯を口に運ぶ。

 いくらここが違う世界といえ、いくらなんでも行儀が悪いとしか思えない。

「座って食え!」

「ほんふぁひかんはふぁい!!」

 一流の翻訳機でも訳せない言葉をこなたは使いつつ、食器をキッチンに運ぶ。

 もっともこいつの普段の言語も難解極まりないけど



「じゃあ、行てきまーす!」

 入ってくるよりも速く騒がしく、こなたは出て行く。

 毎度のことだけど、頭痛がする。



「あっ、シーン」

 行ったと思ったのにこなたが再びキッチンに顔だけ覗かせる。

「なんかあった?」



「あるわけないだろ」



 こなたの方を向くことすらせずにオレは答える。

 だけど視線は感じる。

 それはまるでオレに、本当かと尋ねるように



 本当にイラつかせる



「さっさと行けよ!」

 言葉をぶつけてもこなたは動かなかった。

「うん、じゃあ行ってきま〜す」

 でもそれも一瞬。

 こなたは騒がしく玄関がある下へと降りって行った。



 チッ



 オレの舌打ちが、こなたの玄関のドアを閉めた音と重なり、消えた。





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