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キーンコーンカーンコーン♪
「ほな、今日はここまで! 高良」
「起立、礼」
皆が席に着く音でオレは目が覚めた。
「よく寝てたね、シン」
「バ、バカ、言うな! 黒井先生に聞こえるだろ!?」
オレは慌てて黒井先生の方を見るが、幸い聞こえてなかったらしく、先生はみゆきと何やら話をしていた。
「でもシンちゃんよくバレないよね」
「コツがあるんだよ。バレないようにするコツが。会得するのにかなり時間と修行を必要とするけどな」
オレは得意気な笑みをつかさに向ける。
「す〜ごい、わたしも教えてもらおうかな………」
「つかさ、止めたほうがいいよ。もしバレたら、どんなお仕置きが待ってるか…考えただけでガクブルだね。
あっ、そうそう。ミスコンに出るみたいだよ、先生」
「えっ、そうなの?」
「まあ『ミス』には違いないけどね〜」
「こなちゃん、それ誰に聞いたの?」
「昨日チャットで本人から」
「マジかよ………」
黒井先生は美人というところはオレも認めるが………。
「大人げないというか、そもそも黒井先生はあんなキャラだし、ミスコンになれるわけが――」
「アスカ! アスカ! 後ろ! 後ろ!」
こなただけではなくつかさも青い顔で後ろを指している。
オレが恐る恐る振り返ると、そこに鬼がいた。
「授業中に寝るわ、先生の悪口言うわ、随分えらくなったもんやな〜…アスカ!!」
その直後、今まで喰らった事のない、左ストレートがオレの顔をえぐり抜いた。
黒井先生からのお仕置きは、2時間経っても痛みとハレは増していく一方だったので、昼休みオレは保健室に行く事になった。
「シンさん、大丈夫ですか?」
「殺人拳だな、アレ」
みゆきの問いにオレはハレ上がった頬を擦りながら答える。
黒井先生は『ミス陵桜』より特殊部隊隊員になったほうがむいているだろ。元軍人のオレがそう思うんだから間違いない。
ちなみにみゆきは保健室に用事があるということで、オレについてきてくれていた。
「そういえば…昨日の頼みごとってミスコンのことか?」
保健室に着くまでの間オレはみゆきに話しかける。
「はい、そうなんです」
「やっぱりか。任せとけ!諜報活動はあまり得意じゃないけど、オレがライバルを必ず潰してやる!」
「え? え? い、いえ、あの、そ、それは違います!駄目です!」
「ダメか?」
「は、はい、駄目です」
せっかく昨日いろいろ調べたんだけどな。下剤の作り方とか。
「お頼みしたい事は、今日の放課後に会議室を使って身体計測をするのでそのお手伝いを………」
「ああ、なるほど。だから保健室に用があるのか」
「はい。体重計や身長測定器をお借りしようかと」
体重計とかを保健室から会議室まで運ぶ?…あれって結構重そうなんだけど、
……それに保健室から会議室までってそこそこの距離があったような………。
「シンさん、どうかなされましたか?」
「い、いや、なんでもない。気にするな、オレは気にしない」
トレーニングと思えばいいだろ。
それにこれもみゆきの助けになるんだし。オレは自分にそう言い聞かせる事にした。