『信用足る者』
1
「じゃあね〜」
「おう」
「またね柊ちゃん」
私は同じクラスの二人に別れをつげると廊下を出る。
走っていきたい気持ちに駆られるけど、他人の目があるからそこは我慢。
とはいえ、進める足自体は軽やかになってる。なんといっても今日で試験が終わったのだ。
二年夏の期末試験だったから、中々モチベーションを保つのが難しかったけど、まあまあ満足のいくできだった。
これで後は夏休みを待つばかり。
「おっす!」
私は馴染みの違うクラスのドアを開けた。
「うい〜」
こなたに続きそれぞれが私に返事してくる。
みんなそれぞれに解放されたような顔をしている中、1人だけ難しい顔をしているのが約一名。
ただそれはもともとこういう顔だから、いって見れば変わらない顔といえる。
その人間の名前はアスカ・シン。こなたの親戚で少し前に知り合った男の子。
長く海外に暮らしていたという事情から今回の試験は特別に免除になり別室で自習となっていた。
海外暮らしの割には日本語も不自由がないし、かなり謎の部分が多い。
そしてまあ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、私が気になってる男の子。本当にっちょっとだけ
「ねえねえ試験も終わったし、みんなでパーッとしない?」
しかし私の提案にみんなは微妙な表情を向けてくる。
「ごめん、わたし今日バイトなんだよ」
そういえば最近バイトをしだしたのよね、こなたは
「すみません、私も習い事がありまして………」
お茶かお華か、さすがはお嬢様のみゆき、
「今朝ね、まつりお姉ちゃんが家の手伝い変わってって………」
またかー! 絶対まつり姉さんはすっとぼける気だって!
とはいえ結果は全滅。
どうせ週末あたりに集まるんだろうけど、この解放感を爆発させたかったんだけど………。
「あれ、シンは予定ないんじゃない?」
フォローのつもりだったのか、こなたが余計なことを口走ったのだ。