『口は災い』 〜再構築〜




「おい坊主」

 休み時間、廊下をのんびりと歩いていたオレは後ろから声を掛けられた。

 オレをそんな呼び方するのはこの学校には1人しかいない。

「なんです?」

 振り返るとそこにはオレの予想した姿の人物、オレの大っ嫌いな教科、日本史の教師が渋い顔をしていた。

もちろん、この教師とは授業中を除けば話なんてしない、なのにわざわざ呼止められたのは………



「なんですか、じゃないだろ。この前の日本史の小テストの点数はなんだよ!?」

「小テストなんて関係ないじゃないですか」

 オレはやや腹を立てながら言葉を返す。

 オレがこの世界に来てたかだか半年程度、そんなオレがこの世界の歴史なんて知るわけがない。

だからオレは社会系の教科の成績が壊滅的といっていい。

 それは分かってるのに、いちいち小言を言われたら余計やる気も失せる



「小テストであれだったら期末テストで落ちるぞ?」

「でも落ちても、確か補習日ってイブでしょ? オレちょうどその日はヒマですから」

 なぜかはイマイチ分からないけど、その日、

白石達とかを誘うと『何が悲しくて、その日に男数人で遊ばなきゃならないんだ!』とえらく怒られ、

オレのスケジュール帳は今んとこ真っ白だった。

 何より経験上、補習の方が費やす時間が少ない

 しかし教師の方はそうじゃないらしく、先生はこめかみ辺りを押さえてる。



「おいおい頼むよ〜、オレは黒井先生と違ってその日は忙しいんだからな

 彼女と約束してるんだし、もし行けなくなった………」

「……せ、先生! 先生! 後ろ! 後ろ!」

 オレの真っ青な顔で全てを察したらしく、先生は引きつりながら、恐る恐る振り返る。

 そこにはオレの担任、あのこなたすらも黙らせる「怒れる世界史教師」黒井ななこ(独身27才)が立っていた。



「ウチと違ってどう忙しいんか職員室でじっくり聞かせてもらおか?」

 そう言うや黒井先生は先生の耳を引っ張り、引きずっていった。

 身から出たサビなので、オレは助けることもせずに先生を見送る。

 ……というのは建て前で、実際は黒井先生の眼力にビビっていたから、動けなかったというのが本音だ。

 時々思うんだけど、本当に黒井先生はただの教師なのか? 元軍人とかじゃないのか?



「いてて! ちょ、ま、ま、いてて! と、とにかく頼んだぞ坊主!!」

さすがのオレも断末魔の声を無視するほど、無神経じゃない。それに先生のこの後を考えるとさすがに同情の余地はある。



 オレは溜め息を吐くと、とある場所に歩き出した。





別の日常を見る         進める