「……そういう意味だったの、あの会話………?」

『色欲に陥ったマヌケな巫女』今の私の顔を絵か何かのタイトルにすれば、こんなのが付けられる事だろう。

「そ、そうだよ、悪いかよ………」

 テレビを付けた理由を言わされる羽目になったシンは、心なしか顔が赤い。

 しかし今の私はそんなシンの様子に突っ込んでる余裕なんてない。なんていってもこっちの方が顔が火事なのだから。



 完全に勘違い。

 そもそもシンを喜ばせるなんて、冷静に考えれば他にもあったはずだ。

 プレゼントを渡すとか、どっかに行くとか。



 それなのに私というやつはー!!!



 別にシンの前で醜態をさらしても構わないけど、わざわざ自分からさらそうとは思わない。



 でもまだ、まだ私は今の私の格好を説明していない。

 ここはなんとか誤魔化す! それしかない!

 かなりずるいけどこれしかない! シンに呆れられたくない!



「そ、そうよね、そうだと思った! こ、この格好はちょっとあんたを驚かせようと――きゃっ!?」

 弁護時間は強制的に終了させられ、私はベッドに押し倒される。

 目の前にはシンの顔、薄い光でもこれくらいの距離ならどんな顔してるか分かる。

 でもその顔は私の予想とは違ってとても嬉しそうな顔。



「嘘だね、おおかたオレが喜ぶとでも思ってそんなカッコしたんだろ?」

 自分の心の中を見透かされたら、よっぽどの人間は驚いて言葉をなくしてしまう。それは私だって例外じゃない。

 そして気付いた時はもう遅い。

 刹那の沈黙はその考えを肯定してしまったようなもの。

「……き、嫌いになった? ………」

 言われる前に言ったのは、言われた時のダメージを小さくするため、こんな女々しい抵抗しか出来ない自分が少し情けない。

 シンは私の言葉に意外そうな顔をする。そして何か言う為なのか私に顔を近づけてくる。





「…………」

「そんな事思うわけないだろ?」

 笑いながら私の唇から離して言ったシンの第一声がそれだった。

 今度の私の顔は『不意をつかれた間抜けな女』だろう。

「でも! だって!」



 何を言えばいいのだろう?

 見透かされた本心を否定するのか?

 わざわざシンに嫌われる事を言えというのか?

 どれも無理。だから私は言葉を続けられなかった。



「オレの為にしてくれたんだろ。ありがと」

 耳元で言われた、凄く小さな言葉。

 でも別に声の大きさが想いの強さってわけじゃない。

 それが証拠に今の私にはシンの言葉が嘘やお世辞なんかから出たものとは、違うと判断できる。

 心が満たされる。シンは本当に喜んでくれてる。



「ち、ちょっとドキドキした、いつものかがみと違ってたし………」

 そう言えばこの髪形にするのは久しぶりだ。

 私の髪に触るシンから、興奮が伝わってくる。



「このスケベ」



 私は少しだけ冷静さを取り戻した。

 シンも一緒って分かったから。



「どこが違う?」

「違わない」

 そう一緒。

 愛する人の気持ちを知りたくて、もっと色んな表情が見たくて、もっと愛し合いたくって。

 だからこんな恥ずかしい格好も出来るし、普段言えない恥ずかしい言葉も囁ける。

 私もシンも。



「汚さないでよ…こ、これ特注なんだし」

「それは責任持てないな」

 その得意顔を見ると、取らせてやる絶対に、そんな想いが湧いてくる。



 だからその意味を込めて私はシンを抱き寄せた。





 やっぱり私達に倦怠期なんて考えられない。





〜 F i n 〜   






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