『ここにいる』
1
その日は祝日でもなければ、私とシンの二人の間の何かの記念日というわけでもない。
「お母さん、今日私遅くなると思うから」
でもシンにとっては忘れられない、忘れてはいけない日。
「何々〜? かがみはまたお泊りですか? いいね〜ラブラブで」
私の言葉にお母さんではなく、まつり姉さんがからかいを混じった声で返す。
「そんなんじゃないから」
「えっ、あ、そ、そうなんだ………」
私の真剣な表情を見て、まつり姉さんは気圧された様に頷く。
六月十五日
その日になると、シンの様子が変わる。
そう聞いたのは、親友であり、元恋のライバル達からだった。
なぜそうなるのかは私は知っている。だけど、その変わる様は私は見た事がない。
去年の今日は私とシンはまだ付き合っていなかった。
ただ去年はその日に普段約束は絶対守るシンが、遊ぶのをドタキャンして驚いた事は記憶している。
ただその日が過ぎればシンはいつものシンに戻る。別に放っておいてもシンは立ち直る。
事前にシンに探りを入れてみたが、シンは苦笑して認めたものの、心配ないと優しく笑っていた。シンはそこまで弱くない。
でも、私はそんなシンよりはるかに弱い。
だから心配なのだ。シンがどうにかなってしまうんじゃないかと。