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 自分はこんなにも子供だっただろうか?

 こういう場面だったら普段の私は呆れたという大人な行動を取って、それで終わりのはず

 それなのにムキになって言い返したりして

 でもそうやって外に向って吐き出さないと胸の中のどきどきが高まって、いまにも私の中で爆発してしまいそうだった。



「まあ、いいさ」

 私の気持ちなんて全く知らないだろうあいつは、笑ったまま両手を頭の後ろに回す。

 悔しいけどそんな些細に動作にさえ目がいってしまう。



「何がよ?」

「どうせオレが払うんだしな、好きに頼めよ」

「わ、私、別にそんなつもりで、ここに連れてきたんじゃ………」



 あいつの言葉に、暖かくなっていた私の心は一転して、足元が崩れていく感覚に襲われる。

 自分がそんなにさもしい女に見えるのか

 男に声を掛けられたら簡単に付いていく女に見えるのか



「だぁぁ! なんであんたはそんなに勘違いばっかりするんだよ!?」

 暗い感情が張り付いていたのか、あいつは苛立った声を上げる。

 それがますます私の気持ちを暗くする。

 ……こうやってますます嫌われていくのかな、私



「これは礼みたいなもんだ!」

「礼………?」

 私の問いかけにあいつは視線を外し頭を掻くと、意を決したかの様に口を開く。



「あんたに言われなかったら、オレは色々なものを見過ごしてたと思う

 だから、それを、気付かせてくれた、あんたに………、もう1回だけ言う

 ありがとな、かがみ」





 抱いていたネガティブな感情が全て退いていった。

 あいつに誤解されてなかったとか、お礼を言われたとか。

 あいつが絶対にもう言わないであろう殊勝な言葉を聞けたからとか。

 そんなのが理由じゃなかった。



 あいつの瞳に私は魅入られていた。

 妹を亡くし、たった一人で知らない場所に来たのに、全く光を失っていないその瞳。

 でも強いだけじゃきっとこんな瞳にはならない。

 きっと目の前の少年は私が想像もした事のない経験をしてきたんだろう。

 そうでもないと説明が付けれない。

 そんなにも複雑な色のした深紅の瞳の理由が。



 知りたい

 もっとあいつのことを



 そう、私はまだ何も知らない、アスカ・シンという少年のことをなにも

 あいつのことで知っているのは、私の中にある偽らざるこの気持ちだけ



 だから



「ううん、こっちこそ色々ありがとう」

「ハッ? なんでオレが礼を言われるんだ?」



 まずは知るところから始めよう



 私の好きになった人のことを





〜 f i n 〜   






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