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「最低―っ!」
私は超鈍感男から離れて、明後日の方を向く。
こんなんだったら、一人泣いてた私が馬鹿確定じゃないのよ
まあ、凹むより特訓してたという方がシンらしいといえばらしい。
「かがみ、待て! 確かにそれも理由だけど、お金がない理由はそれだけじゃないんだ!」
足を押さえながら、そんな事を言うシンは見た目完全にダメんズ。
この状況を大学の友人が見ていない事を祈るばかり。
「じゃあ何よ?」
「手を出してくれ」
手? 何か私にくれるのだろうか?
ただシンは見た目には何も持っていない。
「目を瞑ってくれ」
不思議に思いながら私は言った通り目を瞑る。
利き腕の指の方に妙な感覚。
「いいぞ」
目を開けると私の指には、リングが付けられていた。
いや、リングというにはこれに対してあまりに失礼であろう。
これはそこらで売ってるリングじゃない。
「考えたんだ、彼氏がいるってのが分かれば、少しは声掛けてくるヤツも少なくなるんじゃないかって」
一気に早口でまくし立てるシン、そして私の方はというと、動揺・歓喜・羞恥といったもので指輪の渡し主よりも、顔を真っ赤にしていた。
これは結婚指輪じゃない、ただの恋人の証の指輪だ。
自分にそうでも言い聞かせないと、とても理性を保っていられなかった。
でも当然悪い感じはしない、私はうっとりと指輪を見る。
あれ? ……この形どっかで見た気が………。
「それはFAITHの紋章をかたどったんだ」
言われて、シンがあっちの世界で着ていたという軍服を思い出す、確か左襟にこのマークのバッチが付いていた。
これはエリートの証なんだと、少し照れながらも遠い目をしながら私に説明してくれたシンの顔を思い出す。
「これは忠誠を誓うという意味もあるんだ。本来はプラントの指導者に忠誠を誓うって事なんだけど、今は
今はそれとは別に誓う。
オレは愛するかがみに忠誠を誓う」
ぼふん
きっと漫画とかだったらこんな擬音が付いて、私は煙を出している事だろう。
この男はなんでこういう言葉をさらっと吐けるのよ!?
熱い! 体全体が熱い!
なんで私は望んでもいないのに、ここ数日体の限界に挑戦しっぱなしなのよー!?
「こ、こんなのもらっても、い、今のわたしには、か、か、返せないわよ………」
シンの想いはとても嬉しい、ただこれに見合うものを今の私には持っていない。
「ああ、そんなの気にするな」
「気にするわよ!」
分かっているのか、いないのか。
眩しいくらいの優しい笑顔を浮かべてそんな事を言われたら、どうしても返したくなる。
少しでも、返せるもの、返せるもの………。
あるにはある、これでも全然足りないけど、何もしないよりはましだ
でも、人の目が〜明日の昼休み何言われるか………
「どうした?」
のんびり言うな! 人の気も知らないで〜この超鈍感KY男!!!
「シン」
「ん? なんだ―――」
私は門から少し離れた人気のいないところにシンを連れ去っていく。
そしてそのままシンに言葉を言わさせる事をさせなかった。
どうか、どうか、もう少しの間だけ誰も来ませんように
今の私に出来る最高の
謝りとお礼、そして愛を込めて。
〜 F i n 〜