『足元注意』





「シーン!」

 声のする方を向き、手を振る。その先には1人の女性の姿。

 菫色のたっぷりとした長髪を優雅に垂らし、目は釣り目でその瞳に映るのは強い意志と芯の強さ、そして柔らかな優しい色。

 そして服装はその性格を現すかのように女性的でありながら活動的な服装。

 間違い様がない。あれこそ待ち合わせの相手でありオレの彼女でもある柊かがみだ。



「よし行くか」

「うん」

 かがみが側に来るのを待って、オレは声を掛けて歩き出した。

 後から来たかがみは謝らないし、オレもその事で特に何も言わない。

 それも当然だ。今の時間は待ち合わせの時間よりも15分ほど早いからだ。

 オレ達2人のデートはいつもそうだ。

 オレは染み付いた生活習慣上、かがみは性格上、2人とも待ち合わせ時間よりも早目に来てしまう。

 違うのは先に来るのがオレか、かがみかという事だけだ。もっともオレの場合はかがみに一刻も早く会いたいというのもあるが。

 そしてかがみと会って毎回思う事がある。



「ん? どうしたの?」

「い、いや、別に」

 隣で歩くかがみが軽く首を傾げて聞いてくるが、オレは誤魔化す。

 そう、言える筈がない。

 会う度にかがみが綺麗で可愛くなってるなんて。



 普通は綺麗で可愛いというのは矛盾する属性のはずだが、ことかがみに至ってそれは当てはまらない。

 このままいくといずれは眩し過ぎてかがみの方を見れなくなるというのはあながち考えすぎではないだろう。

 現に今も小首を傾けられただけで、オレは思わず抱きしめたいっと思ってしまった。

 それが惚気じゃない証拠は周りの男の反応だった。

 かがみと通り過ぎると10人中9人は振り返る。

 それを見るとほくそ笑む反面、かがみが別の男に取られるんじゃないかと不安にもなる。

 ただその点については少し安心している。

 なぜなら………



「ちょっと!!」

「ぐっ! いきなり襟を掴むな! なんだよ!?」

「なんだよ、じゃないわよ! 次右って言ってるでしょ!?」

「言ってないぞ!?」

「言ったわよ!!」



『ぐぬぬぬぬぬぬぬ!』



 オレとかがみは睨み合う、といっても別にお互い本気で喧嘩をしているわけじゃない。

 これがオレとかがみのやり方なのだ。

 これが出来ている限り、オレとかがみの仲は安泰だと確信できた。





別の日常を見る        進める