『ダブルデレデレ』





 凄いスピードで私の周りを駆け抜けている景色が徐々に鮮明になっていく。

 目的地が近いのだろうか?

 そんな事を考えている間にも風が無くなった。



「見ろよ、凄い人だぜ」



 バイクの後ろ座席で彼氏であるシンの背中にしがみついたまま、私はひょいと首だけを覗かせる。

 ガードレールの下から見える海原には黒いゴマのようなのが沢山見える。

 あれ全部が人かと思うと確かに凄い数である。



「じゃあ、早く行かないとね」

 いつもの私なら愚痴の一つも言ってるはずなのだが、今は前向きな発言をする。

 別に強がりとかじゃない。



 今日の私はおかしいのだ



 ふわふわとしていてまるで現実感がない

 でもそれが嫌じゃない、むしろ逆、とっても心地よい気分にさせてくれる

 理由はよく分からない



 彼氏であるシンと出かけるからかとも思ったけど

 付き合い始めてもう二年目、シンとは何度もどっかに行ったけどこんな気持ちは初めてだった。

 勿論、戸惑いはある

 なんでこんな気持ちになるのか、と



 ただ不安はない

「そうだな、さっさっと宿に行くか」



 なぜならシンと一緒だから

 シンの言葉は弾んでいる

 きっと私と似た気持ちなんだろう

 だったらそれが分かれば充分だった



「しっかり、掴まってろよ」

 私は答えない変わりに、シンの背中にぴったりと抱きつく

 いつも以上にその背中は大きくて優しく感じる

 多分それは気のせい

 でも気のせいでも良かった

 私がそう感じたなら、それで



 再び、景色が流れ始めた





別の日常を見る        進める