『ダブルデレデレ』
1
凄いスピードで私の周りを駆け抜けている景色が徐々に鮮明になっていく。
目的地が近いのだろうか?
そんな事を考えている間にも風が無くなった。
「見ろよ、凄い人だぜ」
バイクの後ろ座席で彼氏であるシンの背中にしがみついたまま、私はひょいと首だけを覗かせる。
ガードレールの下から見える海原には黒いゴマのようなのが沢山見える。
あれ全部が人かと思うと確かに凄い数である。
「じゃあ、早く行かないとね」
いつもの私なら愚痴の一つも言ってるはずなのだが、今は前向きな発言をする。
別に強がりとかじゃない。
今日の私はおかしいのだ
ふわふわとしていてまるで現実感がない
でもそれが嫌じゃない、むしろ逆、とっても心地よい気分にさせてくれる
理由はよく分からない
彼氏であるシンと出かけるからかとも思ったけど
付き合い始めてもう二年目、シンとは何度もどっかに行ったけどこんな気持ちは初めてだった。
勿論、戸惑いはある
なんでこんな気持ちになるのか、と
ただ不安はない
「そうだな、さっさっと宿に行くか」
なぜならシンと一緒だから
シンの言葉は弾んでいる
きっと私と似た気持ちなんだろう
だったらそれが分かれば充分だった
「しっかり、掴まってろよ」
私は答えない変わりに、シンの背中にぴったりと抱きつく
いつも以上にその背中は大きくて優しく感じる
多分それは気のせい
でも気のせいでも良かった
私がそう感じたなら、それで
再び、景色が流れ始めた