500キリ番リクエスト作品


『最高のパートナー』




『じゃんけん、ぽん!』



 しばしの膠着、そして私は敗因である開いた自分の手を見つめる。

「あちゃ〜」



 私は体育祭の希望種目であるパン食い競争にものの見事に落選した。



 私は席に戻り、黒板に書かれている種目に目を通す。

 色物系競技はすでにほぼ埋まってしまっている。

 花形のリレーは運動部が適任、残るは短距離走か、団体種目。

「う〜ん、今いち気が乗らないわねー」

 すでに希望種目に出場できないから、私のテンションは低い。

 気が付くと、出場種目が決まっていないのは私ともう一人を残すのみとなっていた。



「柊ちゃん、柊ちゃん」

 もう一人の出場種目が決まっていない人物、峰岸が私に話し掛けてくる。

「どうしたの?」

「柊ちゃん、私100m走にいっていいかな?」

「ん、何か理由があるの?」

「う、うん、ほら、私運動苦手だから、もう一つの種目だと足引っ張ると思うし、相手の人に迷惑掛けちゃうから」

「そんなの別に相手も気にしないでしょ?」

「うーん、でもほら、最後の体育祭だし良い思い出にしたいと思うから………、私とじゃ恥をかくだけになっちゃうと思うし」

 それも思い出になると思うけど、なんとも人の良い峰岸らしい発想である。

 良い人ってのは大変なのね、私にはとても務まりそうにないわ。



「分かったわ」

 私としてはどっちに出ても良かったし、峰岸の申し出を快諾した。

「ごめんね、ありがとう柊ちゃん」

 感謝の言葉を口にされ、悪い気はしない。

 しかも峰岸の場合は本当に心からそう言ってると感じるから、こっちまでも嬉しくなる。

 こういう女の子を男子が放って置くはずがない。彼氏がいるのも頷ける。

 やはり私も少しは見習うべきなんだろうか。



「おう、あやの、ひいらぎ決まったか〜?」

 今まで全く、体育委員の仕事をしていない日下部が尋ねてくる。

 どうせこのC組の競技種目のメンバー表も峰岸が代筆する事になるだろう。



「うん、私が100m走で」

「私が二人三脚」

「OK〜」

「ちょっと待って」

 黒板に書きに行こうとする日下部を私が止める。

 今まで興味がなかったから気付かなかったけど、あそこにはおかしなところがある。



「二人三脚って二人でするもんよね?」

「そんなの当たり前じゃんか、わたしをばかにしてんのか?」

 どうやら日頃の行いが祟ったのか、私がからかってきてると思ったのか日下部は口を尖らせる。

「じゃなくて、黒板に書かれてる欄二人三脚は五人分あるけど?」

「おおっ! 最初に言うの忘れてた!」

「おいっ」

 やっぱり日下部、さすが日下部、『どっか』ではなく、『だいたい』抜けてる。

 まあ私も今の今まで気付かなかったんだけどね。

「えっとな〜うちのクラスって人数少し少ないだろ。だからさ変わりに他のクラスのやつがここに入るんだ〜」

「一日だけの転入生ね」

「で、どこのクラスの奴が入るのよ?」

 うちの学校は都内でも有数のマンモス校、同じ学年なのに知らない人なんてザラにいる。

 だからパートナーが顔なじみになる可能性は少ない。

 でも二人三脚って息合わせないと駄目だし、出るからには勝ちたいし、こりゃちょっと練習が必要かしら?



「確か、C組と同じ色の組だから………、あった、あった」

 日下部がポケットからプリントを出し、私に手渡す。

 折り目が雑になってるのはもはや何も言うまい。

「……ん〜」

 私は渋い声を上げる。

 内容の項目は簡単に見つけられた。問題はそのクラス。



 そのクラスは私のよく知ってるクラスだった。





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