『タイミングの悪い日』





「なあなあ、いいだろ〜?」

 そう言ってつり革を持ちながら、微妙に体をこっちに寄せてくるのは付き合い始めた彼氏、シン・アスカ。

「だから駄目って言ってるでしょ」

 私は目も合わせずに強い口調で答える。

 友人だった期間が長かった為、気心は知れた仲。だからこそ、こういう態度も取れる。



「そこを、な?」

 シンの方もそんな私の態度を気にした様子もなく、なおも懇願してくる。

 ここまで下手に出るシンは滅多に見れないし、要求を聞き入れてもいい気がするが、あいにくシンが行きたがってる場所はプラモ屋。



「嫌よ」

 別に却下の理由はデートに相応しくない場所だからというわけではない。

 今回はすでに行く場所を決めており、時間も決まっているのだ。

 そしてシンとプラモ屋に行って予定の時間に出られたことはない。

 残念だけど今日に至っては彼の要求は呑めないのだ。



「ちょっとだけだからさー」

 それでも今日のシンは粘り強い。なおも私の肩に手を掛けて懇願してくる。

 しかし私の方はいつも通りの私だから、それほど我慢強くなかった。



「いい加減にしなさいよ!」

「うっ………」

 私の一喝に押し黙るシン。

 その瞳はまるで捨てられた子犬の様で、良心に訴えかけてくる。



「あ、あのー」

 突然聞こえる後ろの席からの声。

 しまった、大声を上げすぎた!?



「いい加減にしたらどうだ、その女の人嫌がってるだろ?」

『へっ?』

 私もシンも全く予想もしていなかった言葉に、顔を見合わせ肩越しに振り返る。

 そこには無数の敵意ある視線が私の彼に向けられていた。





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