『秋の日』





 静まりかえった空間にはペンを走らせる音と本をめくる音が響く。

 こんな空間にいるのは苦痛じゃない。

 逆に大学に入って図書館に籠って勉強ということに慣れつつある。

 ただ意外なのは



 私はシャーペンを止めて、正面に座っている彼氏であるシンを見る。

 だけどシンはそんな私に気付いた様子もなく、本に集中している。

 確かにシンとは高校時代からライトノベルの話で盛り上がったりしてたけど、こんなにも本を読むとは思わなかった。

 それと平行して気付いたのだけど、シンは思っていたより物静かということ。

 皮肉や感情が高まる時は無論あるけれど、そっちの方がずっと少ない。

 ただそんな様子が無理をしている感じには見えないので、恐らくはこれがシンの地なんだろう。

 そんなシンの姿に私は驚きと共に、嬉しさを覚えていた。



 過去のことによって心を閉ざし、攻撃的になったシン。

 そんなシンが変わって、元来の穏やかな気性を取り戻した。

 例えそれが今は私との二人っきりの時だけだったとしても、それはシンが私に心を開いてくれている証。



「もういいのか?」

 おそらく最初から気付いていたのだろう、シンは視線を本に向けたまま尋ねてくる。

 ただまあ人間そんなには変われないものでもある

 ましてやシンのまとう鎧はとても分厚い。私一人だったらきっと傷一つ付けられなかっただろう。

 だから無愛想、ぶっきらぼう、これは中々消えそうにない。

「なんだよ?」

 私は思わず小さく笑った。





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