『お酒は大人の飲み物です』





 9月1日、この日がこうやってのんびりと過ごせる様になったのは大学に入った去年からだ。

 高校の時は長かった夏休みが終わって、学校に登校しなきゃならなかった。

 それ以前は9月1日に何をしていたのかなんて覚えてもいない。ただ流れていく時の中での1日でしかなかった。

 どっちにしろ9月1日という日を心から満喫した日は去年が久しぶりだ。そして今年もその日がやってきた。

 誕生日ではしゃぐなんて子供じゃないんだから、と思うかもしれないけど、これには理由がある。

 それは………



 ピンポーン♪



 誰が来たのかは分かってるため、オレはインターホンを取らずに真っ直ぐに玄関に向う。

「二十歳の誕生日おめでとう、シン!」

 ドアを開けると1人の少女がいた。

 いや、少女と呼ぶには最早失礼だろう。

 菫色の豊かな髪、気の強そうな目、そして大人の色香を出しつつある女性、オレの一番大切で愛おしい人。

 その女性の名前は柊かがみ、オレの彼女だ。



「これはお母さんからのプレゼント」

 部屋に入ったかがみは袋から赤と白のワイン1つずつ取り出す。

 ワインの事はよく知らないが、ラベルを見たら高そうなのは理解出来た。

「気にしないで、貰いもんらしいから」

 オレがワインを凝視してる事に気付いたかがみが掌を返しながら笑う。

 まあかがみがそういうんだからありがたく貰っておこう。



「そして…お母さんから手紙を預かってます、読むわよ。

『シン君へ

 二十歳の誕生日おめでとうございます。

 これからもかがみの事をよろしくお願いしますね。

 プレゼントさせてもらったワインは気にせず飲んで下さい。

 だってシン君はかがみの旦那さんになる………』ってな、な、な、何書いてんのよー!?」

 かがみは真っ赤になって手紙をテーブルに叩きつけた。



 オレはかがみともう一緒になる気でいるし、

かがみだってそうだと何度かこの手の話はオレ達2人の間で出てるのに、今更恥かしがる事か?

 でも普段大人びた態度を取ってるかがみがこういう態度をするから、反動でさらに可愛いくなるのは否定しない。

 そしてそれでオレがよりいっそうかがみに惚れるというスパイラルが出来ている。



「あっーもうー! そ、そうだ、テ、テレビ! テレビを付けましょ!」

 かがみは照れた時の癖である自身の長い髪を手で遊ばせながら、リモコンを手に取った。





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