「せやな、じゃあ行ってもええかな」

「やった!」

「ほなバイクで頼むは、沖縄まで」

「……お・き・な・わ?」

「せや」

「沖縄ってあの、南の?」

「せや、正式に言うたら石垣島や」

 アスカが目をしぱしぱさせる。

 鋭い顔をしてることが多いアスカやけどこの顔は年相応いや、それよりも幼く見える。

 ほうほう、こんな顔をあいつらに見せてるんやろうな。なんかここまでくると微笑ましく思えるわ。



「……バイクじゃ無理だろ………」

「せやな」

「じゃ、じゃあ飛行機で!」

「アホッ! 学生で飛行機なんて高額過ぎるわ!」

「うっ!」

 確かアスカはバイトを何個かしとるやろうけど、所詮は学生のバイト。そんなに大きな金を使えるとは思えん。

 しかも自分の為にやのうて、お金を使わせるわけにはいかん。



「で、でも………」

「アスカ、なんでそこまでしようとすんねや?」

「だって黒井先生には今まで色んな事を教えられたから、先生が困ってる時は、今度はオレが!」



 打って変わって真剣な瞳。

 自分がアスカにそこまでしたとは覚えてない。

 ただ他人の事にまるで無関心やったこいつが、教師であるうちを心配してくれる。



 充分や



「ドアホ!」

「……えっ」

 いつもの鉄拳ではなく、拳を軽くアスカの頭にのせる。



「おのれは今受験生や、自分のことをちゃんとしい」

「それは楽勝………」

「慢心は失敗フラグやでアスカ。特におのれは」

「うっ!」

「合格決まったら、うちも付き合ったるわ」

「でもそれだったら、キャンプ終わってるんじゃ………」

「だったらオープン戦、ペナントレース、なんやったら来年のキャンプでもええ

 別に卒業したら別れやないんやから、またここに顔出しにきたらええやん」

「……また、ここに………」

「だから気持ちだけはまずは受け取っとくわ」



 うちは置いてる手をグーからパーに変える。



「ありがとうな」





「おや、黒井先生遅かったですな」

「えっ、もうそんな時間ですか?」

 職員室に帰ってきたら、桜庭先生は教科書をもってもう立ち上がろうとしとった。

 時計を見ると授業開始三分前! あかんコーヒーも飲めん!

「あ〜もうあいつのせいや〜!」

「ご愁傷様です」



「桜庭先生」

「はい?」

「先生って年月を痛感させられる職業やと思いません」

「………。ですな」

 うちの言葉に深く頷くと桜庭先生は職員室を出て行った。



 こっちも今から急いで仕度や



 ほんまに教師ってやつはめんどい、けどやめられへん





〜 f i n 〜   






戻る        別の日常を見る