「おかふぇひなさい」

 家に帰ってリビングに入ると、こなたがソファでせんべいをかじっていた。

「こなた〜」

「おお、どうだった?」

「暇すぎる」

「まあ、みんなこの時期はもっと大きいとこいくだろうしね〜」

 正月に入ったもう一つのアルバイト。

 時期が3日だっただけにお客が来ないこと来ないこと、来るのは常連がほとんど。

 ちなみにオレはそこではスポット扱いなんで常連はできない。

 まあ男に指名されても微妙な気分になるんだけど



「楽だったでしょ?」

「時間が長く感じた」

「バイトの人達とお話しなかったの?」

「したら男ってボロがでるからな」

 ゆたかの質問に、お手上げのポーズで返す。

 接客ならともかく、日常会話をこなせるほど女にはなれない。

 オレが女装してバイトをしているというのを知っているのはそこに紹介したこなたと、店長、それにチーフくらいのもんだ。

 だからオレはバイト内ではほとんどしゃべれない。

 給料はいいけど、どうにもストレスがたまるアルバイトといえる。



「でもお兄ちゃんその割にはご機嫌だね?」

 ただ確かにゆたかの指摘するとおり、今日はちょっといいことがあった。

「ああ。今日初めて来た客なんだけどやたら喜んでくれてさ、ああまでされるとオレとしてもやりがいがあるよな」

「へ〜男?」

「いや、女の子」

「またフラグを立たせ―ぐあっ!?」

 寝言を言うこなたをしっかりと起こしてあげる新年早々優しいオレ。



「多分ゆたかと同じか1つ上かな?」

「へ〜そうなんだ、そういうところが好きな人だったら田村さんと仲良くなれそうなのにな」

「まあ多分会うことはないだろうけどな」

 特にゆたかは。理解はあるけどそういうのには染まらないし。

 いや、オレが絶対に染めさせるもんか!



「おっ、今なんか失礼なことを考えてたね?」

「してない」

 こなたの指摘を軽く交わし、ふとあることを思い出す。



「そういえばその子、お前と一緒だったな」

「こっち側の子なんでしょ?」

「そういう意味じゃなくてだな、もういいや」

「ちょ!? 拡げといてやめんな!」

「いいだろ、ご飯にしようぜ」

「は〜いじゃあちょっと待っててね」

「ちぇっ〜」

 そして3人がそれぞれ夕食の準備をし始める。



 奇しくも同じ、オレを拾って色々なことを教えてくれるきっかけになったこの家の人達と



「いずみ、若瀬いずみ、か」



 そんな縁からか、またどこかでその少女に会う気がした。





〜 f i n 〜   






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