『ニアミス』
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「入るぞ」
「はーい、どうぞ」
私へのお祝いメールを部屋で見ていると、お兄ちゃんが入ってくる。
正月のテレビに飽きたんだろうか?
「妹よ、ほら誕生日プレゼントだ」
これくらいの年になっても、兄から誕生日プレゼントをもらうのは世間一般では珍しい。
まあ私達は趣味に共通点が多いし、なんだかんだで仲がいいから不思議なことではないけれど。
「何これ?」
しかしお兄ちゃんが渡してきた一枚の紙切れには首を捻るしかない。
もちろんこれがお札ということはない。
「お前ももう高校生だ、そろそろこういうところにデビューしてもいいだろう」
「はあ!?」
したり顔で言ってくるお兄ちゃんだけど、ここって………。
「何をえらそうに。ここってコスプレ喫茶じゃない!?」
「タダ券だぞ、手に入れるのは結構苦労したんだ」
私の怒りの抗議に心外とばかりに、お兄ちゃんは入手経由の手間を説明してくるけど、問題はそこじゃない!
「私がこの手の趣味だってのを秘密にしてるのは知ってるでしょ!?」
「ああ、もちろん」
「だったらさー」
ヲタク、この単語もだいぶ世間一般に知れ渡ってきているけど、意味としては未だに正しく認識されていないのが現状である。
間違ってはいないけど、ああいういかにもなヲタクばかりではない。
平穏に自分の趣味を楽しんでいたい、そういう私みたいなヲタクも存在しているのだ。
ただやっぱりイメージとは怖いもので、ヲタクというのはネガティブなイメージにされてしまっている。
だから私は迫害されるのが怖くて、親しい友達にも自分がヲタクだということを打ち明けてはいない。
知っているのは家族だけ。
私は平穏にくらしたいだけ