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 こうのばか! ばか! なんでそんなのを食べたくなるのよ!?

 今頃部屋でのんびりとくつろいでるであろう、腐れ縁に怒りをぶつけるが、事態は全く好転しはしない



「……カレーまんとあんまんを一つ………」

 仕方なく私は声の高さを変えて注文する。

 大丈夫、そういうのはカラオケでいつもやってるから



「分かりました」

 疑う様子を見せずカレーまんとあんまんを用意始める『天敵』。

 これはきっとバレてない

 ……いつも、私のことはなんでも分かってるって態度を取るくせに、所詮はその程度。



 やっぱり何も分かってなんかいない



「お待たせしました」

 そうして慣れた様子で、雪見大福とは別の袋に、カレーまんとあんまんを詰め込んでいく『天敵』。

 そして会計を済ませ、私は袋を手に取る。





「あ、待った」

 それだけ言うと『天敵』はレジ横に置いてある羊羹を、袋に詰め込む。

「オレからのオゴリ」

 抗議の声を上げるまでもなく、『天敵』は笑顔を作りながら言ってくる、私の知ってるあの苦手な笑顔。



「ってかまだ12月だぞ、その格好はさすがに熱すぎるだろ」

「……寒いのが苦手なんです………」

「なのに雪見大福を買うのかよ?」

「……好きなんです………」

「羊羹もだったよな?」

「……好きなのは水羊羹………」

 険しくなる私とは逆に『天敵』の表情は緩く、だらしなくなっていた。



 いつから気付いたのかは知らないけど、また弱点を『天敵』に知られてしまった。

 そして見られてしまった、浅はかな自分の行動を

 ほんとにムカつく! こうなんか『これ』に比べたらほんとに可愛いもの



 私はひったくる様に袋を持ち去り、出口へと歩いていく。

「夜はヒマだからまた来てくれよ、やまと」



 

 にこやかこの上ない顔で手を振られ、私の体の全身から熱が生まれる。そうこれは怒りの為。

 どうして素知らぬふりが出来ないのか、こっちは女として物凄く恥ずかしい格好をしているのに

 やっぱり『あれ』は私の『天敵』だ。



 私は駐輪スペースに置いた愛車のグリップに袋を通し、サドルにまたがり、ペダルを漕ぐ。

 速度は行きなんかとは比べ物にならないくらい速さ。

 寒さなんてまるで感じない



 次は『天敵』が仕事をしてる時に来てやる!





〜 f i n 〜   






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