『天敵』





「ねーえ」

 ペンを走らせる音に向かいに座っている腐れ縁が声を入れてくる。

 一瞬このまま無言を貫こうと思ったけど、それをしたら私が答えるまで相手は話し掛けてくる。



「……なに?」

 私は相手の方を見ずに尋ね返す。

 恐らくこうのことだからろくな思い付きではないだろうけど



「お腹空いた〜」

「そう」

 思ったとおり意味のないものだったので、私は流して受験勉強を続ける。



 私もこうも今年受験生だからこうやって時々、どちらかの家に泊まって受験勉強をしているのだけど、

これが最近あまり効率的でないことに気付いた。

 そもそも私もこうも学力はそんなに変わらず、苦手教科も同じ英語の為、分からなくても、満足する解答が得られないことが多い。

 おまけに集中力の切れたこうが、ちょくちょくちょっかいをかけてくるので一人でやっていた方がはっきりいってマシ。

 それなのにこうして一緒に受験勉強してるのは、私にとってこうがそういう存在だから



「やまと〜冷たいーお姉さんはそんな風に育てた覚えはないよ」

「育てられたなんて思ったこと一度もないから」

 最も本人を前にしたら言えない、というより誰にも言えない

 でもそれを知っているこう本人を除いて一人いる。



「てなわけでやまと、ジャンケンで負けた方が夜食を買ってくる!」

 一度も頷いた記憶が無いのに、話が進んでいってるのは毎度のこと、怒る気にすらならない。

「いやよ」

 ただ否定は重ねておく。今回は理由があるから



「なんでさー? やまとはお腹空かないの?」

「空いてるわよ、もう日付変わったんだから」

「やまとージャンケンに勝てばここで待ってるだけだからさー」

 さすがにこうはアウトドア派の私がこれほどまでに、外に出るのを嫌がる理由が分かっている。



 私は何より冬が嫌い

 寒いし、暗いし、良いことなんて一つもない

 そしてそんな嫌な塊の集大成、冬の夜に外になんか出たくない



「じゃあこうが行きなさいよ」

「それだと私の分しか買ってこないよ」

 短く唸る私

 勝ち誇るこう



「……分かったわよ」

「じゃあ決まり! ジャーンケーン」

 思えば態度の差からすでに結果は見えていた。





「じゃあカレーまんとあんまんと暖かいお茶〜」

「……おごりじゃないからね」

 わずかばかりの反撃にと釘を刺す私。もっともまるでこうには効いておらず、はいはいと笑って流される。

 そんなこうの態度を見て、私は少し乱暴にクローゼットから服を取り出す。



 覚えてなさいよこう



「じゃあ行ってくるから」

「え〜とやまと、その格好でコンビニ行くの?」

「何か文句ある?」

 恐る恐るといった様子のこうを私は睨みつけながら聞き返す。

 こうは今度は慌てた様子で首と手を左右に振る。



「じゃあ留守番やっといてよ」

 私はそれだけ言うと、決死の覚悟で外へと出て行った。





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