鍋をかき混ぜても何も取れなくなった頃、シンはおもむろに一つの大きくはない小瓶を出してきた。

「何これ?」

 こなたが瓶をつかんでみるが、ラベルの文字がところどころはげているのと英語の為、早々に隣のかがみに渡す。

 そんなこなたの様子をジト目で見た後、かがみは眉間にしわを寄せながら、文字を解読する。



「お酒?」

 そして蓋を開けて匂いを嗅ぎ、あまりのアルコールのきつい香りにかがみは顔を離す。



「それな、オレが跳ばされた時にポケットに入ってたものだ」

「へっ?」

 さらっと、重大なカミングアウトに、瓶を姉から渡されたつかさは手の中の物を踊らせ、それをみゆきがしっかりと支える。



「そういえば、お酒は気付け薬として効果がありますので、軍隊でも携帯されていますね」

「ああ」

 みゆきから瓶を受け取り、シンは五人の中心にそれを置く。



 一見、小さな酒屋の酒蔵に放置されているようなものだが、この世界では決して手にはいらない、貴重なシンの過去の思い出。



 しかし、なぜシンがこれを今このタイミングで出したのか?

 四人がシンの真意を測りかねていると、シンがどこか面白そうな顔で口を開いた。



「今日オレはこの世界で成人になった、この世界でだ」

 シンが元いた世界の国では、一五歳を越えると成人として扱われる。

 いわばシンは今日二回目の成人式を迎えたことになる。



「だからさ、一つのケジメを付けたいんだよ

 この世界で生きていくために」



 四人は何も言わず、シンの言葉をそれぞれ心の中で反芻する。

 何度か聞いたことはあるが、改めての宣言。

 シンがずっと自分達と一緒にいてくれる。



 それは四人にとっては嬉しいという反面、胸が痛むものだった。

 それがシンにとって、どれほどに大きな決断を迫ることだったか、

こちらの世界に跳ばされた時からのシンをずっと見ていた四人には分かりすぎるくらいのものだった。



「でも、皆知ってると思うけどオレ弱いから、一人じゃとても出来そうにないんだ

 だから、力を貸してくれ」



 そう言ってシンは深々と頭を下げた。





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