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「ふ〜ん、部長って大変なんだな」
オレは奢ってもらった、コーヒーを一口付けてから、こうが話した事の端末の感想を述べた。
どうやら部員の一人が〆切りギリギリらしい。
「そうでもないですよ、あうあうしてる部員達の様子を見るのは楽しいので」
「悪趣味だな」
といっても、こうがいい先輩だというのはなんとなくは分かる。
アニ研部の知り合いの女の子も、なんだかんだと部のことを楽しそうに話してたし
それに比べて、オレの先輩ときたら―――
「何より、可愛いですからねーなんだかんだで私の結構無茶な企画に付き合ってくれますし。
その子はサークル掛け持ちなのに」
「うっ………」
まあ今振り返ると、オレはあんまり可愛げがなかったかもしれない
やることなすことに噛みついてたし………。
「? どうかしたんですか?」
「い、いや、なんでも」
苦いものを、少しマシな苦さのコーヒーで押し流す。
それでも口には苦さが残った。
「じゃあ、私はこれで」
そんなオレの微妙な葛藤に気付いたか、気付いていないのかこうはあっけらかんと解散を告げる。
「やまとが待ってるんで」
「ああ、そりゃ早く行った方がいいな」
頭に仏頂面に三角目が、デフォルトの顔になりつつある少女の顔が思い浮かぶ。
もちろん性格は予想通り気難しい。
それでもこうとその少女が仲が良いのは、きっとこうの度量が広いからだろう。
「そうですね、せっかくの誕生日プレゼントをお預けになるといけませんし」
「誕生日? 誰の?」
「えっ? ああ、私です。今日私の誕生日なんで」
「なにぃぃぃぃぃ!?」
オレの絶叫ともいえる声は多くのゲームのBGMと合わさり、そして消える。
「早く言えよ!」
オレは乱暴に頭をガリガリとかく。
今日誕生日の相手に奢ってもらうなんて、また空気読めないという勲章が1つ追加されちまう!
とはいってもこの状況ではもう手遅れに近い。
「別にいいですよ」
「いや、それはよくないって!!」
「ははっ、ギャルゲー主人公みたいですね、シンちゃん先輩」
何度も聞き慣れたこれまた不名誉な異名に、思わず言った本人を睨み付ける。
が、こう本人は相変わらず笑ったまま。
……なんかオレが後輩みたいだな
「じゃあ、来週のこの曜日、ここでまたってことでどうっすか?」
「えっ? こうがそれでいいなら………」
「OK! じゃあ決まりですね」
ピースのサインでオレを指すこう。
「……あ、ああ………」
そしてその仕草とその笑顔に、不覚にもオレはドキリとさせられた。
本当に不覚にも
「あれ? シンちゃん先輩、顔赤いですよ?」
「うっ………」
ニヤニヤとこっちを見てくるこう。
こうなるともう先輩なんて威厳なんてあったもんじゃない
「早く行けよ! やまとを待たせてるんだろ!?」
「そうでした、じゃあシンちゃん先輩、これで!」
走り去っていくこうを見ながらオレはまた一口コーヒーに口を付ける。
コーヒーは苦かったけど、さっきよりは砂糖の味を感じた。
〜 f i n 〜