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 空になった缶を私に渡すと、先輩は距離を取る、幅にすると3メートル前後。

「そこから投げてみろ」

 これで何を見せようというのか?

 避けてみせて、自分の運動神経の良さを見せるのだろうか………。

 女子だから、たいしたスピードは投げてこないとタカを括っているのか。

 何にせよ、これで力を見せた事になるのだろうか?



「いいから、ほら」

 私は仕方なく、大きく振りかぶり、思いっきり缶を投げつけた。





 信じられなかった



 避けるのはちょっと運動に自身があれば出来る。

 だけど、先輩は迫ってくる缶を受け止めた、しかも片手で



「まだだ、よく見とけよ」



 クシャ



 音を立てて、缶がつぶれる、縦に



 私はその光景に目を見開く。

 あの缶が普通に世の中に出回ってるものなのだというのは、さっき手にしたからわかっている。

 それをあんな簡単に



「これはオレの力のほんの一部だ。それ以外にも、色々とオレは出来る」

 嘘は言っていない、それはさっきのやりとりと眼を見れば分かる。

 この力をどうやって手に入れたかは分からない、そんな事が問題じゃないから。

「……その力、みゆきさんや小早川さんに向けないと、言い切れるんですか?」



 こんな力の前では人、ましてや女の人なんて一瞬、考えただけで身震いがする。



「ない、絶対に」



 先輩はなんの躊躇いもなく答える。

 だけど逆にそれが怖い。

「……どうして言い切れるんですか?」



「オレの力は守るべき人には振るわない。

 それがオレが力を欲した理由だし、オレがここで生きてるっていう存在価値だからだ」



 クシャシャ



 より力を込めたのか、缶が音を立ててさらに小さくなる。

 そして丸みを失った缶の先端で切ったのか、先輩の手から血が少し流れる。

 でも先輩は苦痛に顔を歪める事もせずに、私を見ている。

 覚悟を私に見せる様に



 病的ともいえる覚悟、怖く、脆く、でも不思議とその言葉に頷かせる、何かがある。



「……分かりました」

「本当か?」

「……はい、私にも大切な、守りたい人がいますから」



 共通点、それを見出すと人は急速に親近感が芽生える。

 もちろん私も、そして先輩も



「そっか。

 後もう一つ言っとくけど、オレとみゆきとあの二人は、別に世間一般で言う様な関係じゃないからな。

 言ってみたら…こなたやゆたかみたいな家族、そう、家族みたいな関係だ」



 これが照れながら言ってるならまだしも、真顔で言っているから太刀が悪い



 やはり全然分かっていない。

 だからきっと今後もみゆきさんを泣かせる。



「……やはりあなたの事を信用できません」

「なっ!?」



 男の人としては最低



「……だから、私はあなたの言った言葉が嘘じゃないか、見張る必要があります」



 ただ人としては好意がもてる、だから認める、大切で守りたい人が一緒の仲間として



「だったら、その見張り役のあんたも失うわけにはいかないな」

 私の言葉の意味を理解したのか、浮べる笑みには屈託がなかった。



 先輩の方も私を仲間として認めた



 そんな気がした





〜 f i n 〜   






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