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所定の場所には泉さん、つかささん、そして成美さんがすでにおられていました。
手を振っている泉さんを確認されるとあの方は、わざとらしくため息を吐かれ、そちらに向かわれます。
そして私とかがみさんは何気なしにその場に留まっていました。
ひょっとしたら、かがみさんも何か思うところがあられたのかもしれません。
なんにせよ、好機が訪れました。
私の心に残っている背徳感を出す好機が。
「私は」
かがみさんは突然呟いた私の方を見られます。
そしてかがみさんがこちらを向いたのを確認してから、私は正面を向いたまま続けます。
「私は好きな人ができました
その人は、私よりももっと素敵な方から想いを寄せられています」
そして心の中で一呼吸。
ひょっとしたら、これっきり、そうなるのかもしれません。
「ですが、私は諦めたくはありません」
なぜならこれは私なりの宣戦布告なのですから
「諦めずに、やっていきます」
そこで初めて隣のかがみさんの方を向きます。笑顔を作る余裕すらありません。
かがみさんは呆然といった表情でこちらを見ておられます。
宣戦布告、それが届かなかったのでしょうか?
「そっか」
やはりかがみさんは聡明なお方です。
今ので全てを理解されたようです。
「そっか」
もう一度だけ呟かれると首を正面に戻し、少し上を見られます。
自分からの一方的な攻撃、怒られても、口をきかれなくなっても、文句の言えるはずがありません。
でも
なぜでしょう
そんな気はまるで感じません
「私もそう、一緒」
予感はありました。
ですが、これ程までに穏やかに屈託なく微笑まれるとは思っていませんでした。
今度は私が呆然とかがみさんの方を見ます。
「だから今度聞かせて、みゆきの好きな人のこと
それで私の相談にも乗って欲しいな」
何気なく小首を傾げるかがみさんは、いつもの凛とされている時とは違い、
とても可愛らしく、それこそ私が男であればまず放ってはおかないでしょう。
これも好きな人ができたという効力なのでしょうか
本当にとても強敵な方と、男の方を取り合うことになりました。
「はい、ぜひ」
開戦したはずなのに、心は先ほどと打って変わって晴れやかです。
やはりかがみさんに打ち明けて良かったです。
「お前達、いつまでもそこにいると置いてくからなー」
永遠とも思える流れを切ったのはあの方でした。
「行こみゆき、難儀なやつがお待ちよ」
「はい」
宣戦布告をしたばかりというのに、私達は手を繋ぎ小走りにお祭りの中を駆けました。
〜 f i n 〜