『誰がための誕生日』





 残暑の滲む月が変わった最初の日。

 久しぶりの制服に、下らないけど笑っちゃう会話。

 なんにも変わらない

 学校の始まり



 最後の挨拶を終えると、私は鞄を手に教室を出る。

 早足で行きたくなる衝動を堪え、いつもの様に何事もない感じで。

 変わったところはこれ。



 どうしても顔を合わせたくて

 できれば一緒に帰りたい人ができた





 目的の教室に到着。

 一呼吸置いて、ドアを開ける。



「ふえっ!」

「をっ!?」



 変な声を上げたのはドアの先にいきなりあいつがいたから

 準備してたとはいえいきなりすぎる!



 かち合う視線。

 反らしたらおかしいので、私はあいつを見続けなければならない

 でも見続けたら、私の心臓はどんどん早くなっていって、痛くなる。



「おどかすなよ」

 仏頂面のままあいつは淡々と告げる。

 全く人の気も知らないで、デリカシーのかけらもない。

 とはいえ、この状況を打破するきっかけになるのでこれを利用させてもらう。



「なに言ってんのよ! そっちがデカ………、くもない図体で立ってるから悪いのよ」

「今オレをチビって言ったよな? あんた」

「別に言ってないわよ、大きくないって言っただけで」

「そりゃ誰かさんの腹と違ってな」

「なんですって〜!?」



 ぶつかる視線。

 反らしたら負けなので私はあいつをにらみ続ける。

 でもにらみ続けたらその分だけ、胸が痛くなる。



 こんなこと本当はしたくない

 喧嘩なんてしたくない

 あいつに嫌われたくないのに



「取りあえず、出口を占拠するのはやめてもらおうか?」

「うぇっ!?」

「うを!?」

 望まぬ喧嘩は、私達二人の間から突然浮き上がってきたこなたによって中断となった。





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