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「ありがとうございました〜!」
店員さんの声を背に、後ろ髪を引かれる思いで、ファミレスを後にする。
氷室のようなな冷蔵庫の世界から一転、地獄の圧力釜の中へと逆戻り。
「あっつー……」
と、ごちるシン。
「そうね、快適過ぎて忘れてたけど、外は暑いのよね……」
と、力なく返す私。
「さ、帰るか」
「そう、ね」
炎天下の屋外は相も変わらずアブラゼミがじーじーと声を枯らして鳴いている。
「……なぁかがみ、冷やし中華でも食ってかないか?」
「……そうね、今日は涼しい所ならどこでも付き合うわよ」
真っ白な画用紙みたいな私たちの会話を彩っていくように、アブラゼミが鳴いている。
そう、まるで12色の色鉛筆で何かを描き込むみたいに。
目眩がするような青空を見上げて、じーじーと力の限り鳴いている。
おずおずと二人の指が、絡まる。
どちらともなく。
アブラゼミは、じーじーと鳴く。
「夏は短し、恋せよ乙女」と。
―――力の限り、想いをこめて。
【fin】