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今日は7月7日、さぁて、何の日でしょう?



そうね。世間的には本日は七夕。

気になる天候は、どピーカンの晴天なり、ってね。

きっと天の川もベタ凪の鏡みたいな水面で、織姫も彦星もそりゃあお喜びになるに違いない。



私的には今日は、ってーと……。まぁそれは言わぬが華ってヤツだし。

だから、えぇと……なんてーか、故意的に黙秘。

うん、そうだ。その方が多分私らしい。きっとそうだ。そうに違いない。うん。





………えぇと。で、なんだっけ?





あぁ、そうそう。





そんなことより、まさに夏は本番。

制服の前時代的な生地が恨めしい季節の到来。

この無駄に厚いスカートに『GORE-TEX』のロゴを刺繍してやりたい気分よ。





できないけど。

えぇ。できませんけど。

そんな器用じゃないし。制服いじると怒られるし。





「……お前、何一人で百面相してんだ?」





呆れたようなシンの声で、私は一気に我に返る。

おっしゃる通り。下駄箱の前で上履き握りしめて何やってんだ、私は。



待ち人来たらずでぼんやりしてた私は、いつのまにか自分の世界に入ってたらしい。

きっと間の抜けた顔をしてたに違いない。てゆーか、ぜったいしてた。間違いない。

うわぁ、恥ずかしい。





「ま、お前の変顔いっぱい見れたから、いいけどな」





……ああ、穴があったらコイツを叩き落として埋めてやりたい。

可及的速やかに埋めてやりたい。



大体アンタが中々来ないから暇持て余してた結果でしょうが。

私は上履きを靴箱に乱暴にしまい込んで、ローファーを掴み出す。





きーんこーんかーんこーん。

遠くの空からピッチがややずれたチャイムが鳴り響く。



12時、正午を告げる鐘。

学校のそれじゃなくて地方自治体の防災無線が毎日定時に鳴らす、ざりざりしたノイズ混じりのチャイム。



正午に下駄箱。別に早引けとかじゃない。

そう、嬉しい事に今日は午前のみで授業が終了だったりする。



なんでもうちの学校で近隣の識者が集まってタウンミーティング?とやらをやるんだとかなんとか。

青少年の育成指針や、障害者の就労支援や、なんだかそういう難しい話をしあうらしい。



見学も出来るらしいけど、私はそういうのまだイマイチピンと来ないしパス。

や、大事なことなのは解るんだけど、なんかそういう場に私がいるのって場違いっぽくないか?って。





……で、何はともあれ時間が出来た訳だから、みんなでどっかに寄って帰ろうと思ったのよ。

時間も時間だし。どっかで何か食べて、さ。



だってのに、みんなして都合が合わないんだもん。



みゆきは例のミーティングのお手伝いで先生に駆り出され、

こなたとつかさは、いつものように居残り補習。

同級生も後輩もみんなみんな全員何かしらの用事持ち。



私のうちの神様はこういう時、絶対仕事サボらないのよね。

誰一人取りこぼさず、皆に用事を振り分けてくるもの。

そんなに私が嫌いか、コンチクショー。っていっつも思うわ。



でもって、一人でとぼとぼ歩いてたら、突然のシフト変更でバイトが休みになって、

手持ち無沙汰でつまんなさそうにぶらぶら歩いてたシンを見つけて強制連行。





で、カバンを取りに行ったシンを待ちぼうけして、さっきの喧騒に至る、と。





「うわ、外暑ッ!」



一足先に外に出て、強烈な日差しに顔をしかめるシン。





「こら、置いてくな。馬鹿」



ローファーのつま先を床でとんとんしながら、追いかける私。



二人だけで帰るのなんて、いつ以来だったっけ?

そんな事を思いながら、私は彼の背を追う。



涼しげな校内から、灼熱の屋外へ。







―――摂氏38度の熱気の中へと、小走りで。







【夏は短し、恋せよ乙女:step up to brighter】







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