『全てのはじまり』





「高校決めたのか?」

「ん〜どうだろう」

 普通の家庭であるなら重い話であるのはずの進学の話題だが、ことこの親子に関してはこれは当てはまらない。

 なぜならゲームを二人でしながらの会話なのだから。



「働くとかは考えたのか?」

「ピンとこないしね〜」

 ゲームに夢中とはいえ自分の将来に対してあまりに関心が薄い娘。

 だが自分も同じ年齢の時はどうであったか父親は考える。

 今の小説家という職業を目指していたのか。ただ毎日が楽しく、そして横に好きな人がいてくれたら、

そんな他愛もないことしか考えてなかった気がする。



「勉強やった方がいいとは思うんだけど、やる気がでないんだよねー」

 娘の言葉に父親が苦笑する。

 もちろん少女もこのままではいけないとは思っている。

 だが将来やりたいことも見つかってないし、今はそれよりも楽しい日々、

特に日常的でないものが起こって欲しいなんてことを願っている。



「そんなことで大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない!」

 娘の自問に父親が答える。

 ネタをネタで返してくれる父親は、間違いなく自分と血縁だと思わせてくれる。

 ただ尊敬は全くできないが



「迷ってるなら進学すればいい、お金の心配はしなくていい

 そしてやる気がでないなら」

 そして父親はタイムを押してテーブルの下に手を入れる。

 出したのは1枚の長方形の紙。

 書かれてるものは偏差値順に並んでいる学校名。



「そんなん見たらSAN値が下がりまくりなんですけど」

「待て慌てるな」

 そうして父親は偏差値の区切りのいいところでマジックペンに線を引いていく。

 そしてその空白に文字を書き連ねていく。

 書かれている文字はPSやPS2やキューブといった勉強には似つかわしくないもの。

 しかしそれを見た少女の顔つきが変わる。



「お、お父さん、まさか………」

「そうだ、それぞれのランクに受かれば、横に書かれているものを買ってやるぞ!」

「しかし、あまりに高いところを狙えば失敗して、人生の底辺へと落ちていく」

「どうだ、少しはやる気でたか?」

「と、取り合えず、まずは報酬の検討だ!」

 少女は紙をひったくると自室へと駆けていった。

 やり方はどうであれ、どうやら父親は娘に受験に向わせることに成功したらしい。

 父親としては娘が人の道から踏みはずれるようなことさえしてくれたら、何をしても良かった。

 笑って生きていけたら、楽しい人生を送れたら

 その準備の手助けをできたら





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