『Natural』
1
照りつける太陽、木に留まって鳴くセミ。
どれもこの世界での夏の風物詩と言えるものだ。
だけど残念ながらほとんどの者はそんな風流な事は感じず、ただ暑さに辟易していた。
「なんなんだよ! この暑さは!?」
そしてそれはオレも同じだった。
この世界に来た最初の内こそ自然の暑さというものに感動していたオレも、
2回目を迎える夏にはそこらの学生と同じ感想を持つようになった。
しかもこんな暑い日に限って学校の登校日があるのだからやってられない。
「そもそも暑いから休みにしてるのに学校に来るのはおかしいだろ!?」
「アスカ」
独り文句を言ってたオレは後ろから声を掛けられる。
「………?」
しかし振り返ってみると誰もいない。
どうやら暑さのためかなり頭がイッテしまってるみたいだな。
「おい、教師を無視して行くな!」
オレが再び歩き出すとまた後ろから声。
しかし振り向くとやはり誰もいない…いや視界の下の方に何かを見つける。
オレは視線を下げる。そこにいたのはヨレヨレの白衣に眼鏡を掛けた小さい女の人だった。
「あっ桜庭先生、おはようございます」
「貴様、ワザとだろ? 絶対ワザトだろ?」
「やだな〜そんな訳ないじゃないですか」
小さくて見えませんでした、とは口が裂けても言えない。
桜庭ひかる先生、生物教師でオレの隣のクラスでかがみの担任。
オレとはプラモ仲間であり、担任の黒井先生に次いで話す先生だ。
「で、オレになんの用です? 新作ですか?」
桜庭先生がオレを呼び止める理由がこれ以外に思いつかない。
ただ桜庭先生の手には出席簿しかないみたいだけど………。
「ああ、それは現在気合入れて製作中だ、出来たら見せてやる。
今回はそれじゃなくてだな…アスカ、お前成績は良い方だな?」
「ま、まあ…一部を除いては」
自慢になるがオレの成績は理数系と英語は学年トップクラスで、それこそ優等生で通ってるかがみやみゆきともタメをはれる。
ただその割にオレの総合成績は中の上から上の下程度。これもひとえに社会系の科目に足を引っ張られているせいに他ならない。
そもそも異世界から来たオレがこっちの世界の出来事を覚えるのは容易じゃない。
最近はかがみやみゆきに勉強を見てもらってようやく赤点を防ぐのが精一杯だ。
「知り合いが家庭教師を探してるんだが、やらないか?」
「家庭教師ですか? ……うーん」
桜庭先生の提案にオレは頭を押さえて考える。
現在居候の身であるオレは万年金欠気味だ。普通だったらここで飛びつくはずなのだが………。
「オレ、夏季講習があるんですよ」
今のオレは受験生、当然受験も控えている。それで時間を潰すのもあまり良くないだろう。
そこまで考えて自分が完全にこの世界の学生になってる事に心の中で苦笑いする。
これも全てあいつらのせいだな………。
「心配するな、毎日というわけじゃない。ちゃんとお前の予定も考慮してくれる様に言っておく。ちなみに日給でだな………」
桜庭先生の言った額はオレの目玉が飛び出る程のものだった。
これだけの額なら少しは大学の費用の足しになる。そうしたらそうじろうさんの負担を少し和らげれるはずだ。
そうじろうさんは大学までの費用は面倒を見るとは言ってくれているが、その厚意にいつまでも甘えているわけにはいかない。
それ以外でもそうじろうさんにはお世話になりまくっているのだから………。
「やります! いつからですか?」
結局オレは桜庭先生の依頼を引き受ける事になった。