『誕生日はバレンタイン』



「ったく、金がいいからと引き受けてみれば」

「いいじゃないですか〜どうせ受験終わってるんですよね?」

 オレの愚痴を傍らにいる少女が笑いながら返す。

 その少女の名は小神あきら、自称スーパーアイドル。



 今回オレがあきらから依頼された仕事はバイク便。

 内容は梱包されたチョコを明日のあきらの『お誕生日イベント』の会場に運ぶというものだった。

 これは事務所側からの依頼ではなく、あきらの個人的な依頼である。

「こういうのって、発送は事務所がするんじゃないのか?」

「うちの事務所貧乏なんですよ」

 本当か嘘か判断に困る事を言うあきら。

 まあそのお陰でオレのところにお金が入ってくるんだから、取り立てて文句を言うほどでもない。

 文句があるとすれば………



「もう夜なんだが………」

 当然オレは明日学校がある。

 移動時間とかを考えるとそろそろここを出たい。

 いくら大学受験が終わって自由登校になったとはいえ、クラスの連中とは当分会えそうにない奴もいる。

1日でも皆との思い出は欲しい。



「仕方ないですよ。全部手作業なんだし」

 あきらはトレードマークともいえるだるだる袖ではあるけど、珍しく出してる手をパタパタと振る。

 オフなのに定番の服なのは、これだと気合が入るだからだそうだ。

「しかし誕生日前日に大変だな」

 明日はあきらの誕生日とはいえ、世間的にはバレンタイン。

 だから明日のイベントはあきらがチョコを渡さなければならない。

 数にすると限定100個。

 だがそれをラッピングから梱包まであきら1人でやっている。

 あきらは学校から帰ってこれをずっとやってるらしいけど、未だに裸のチョコは3分の1はある。



「ああ〜もう! オレも手伝うぞ!」

 待ってるのに飽きたのと、あきら1人にやらせるのは忍びないので、オレはチョコに手を伸ばす。



 パシン



「いたっ!?」

 叩かれる手、叩いたのはあきらだった。

「ダメですよ〜これはわたしがラッピングすることに意味があるんだから☆」

 笑ってはいるけど、あきらは怒っている。

 口調もプロモードだし、何より目が笑っていない。

「……ごめん」

 オレはあきらの勢いに押される形で滅多にしない謝罪の言葉を口にする。

 あきらからすればイベントに来てくれた人には不義理な事をしたくないのだろう。

 たいしたプロ根性だ。

 あきらへの敬意と共に、オレは自分の迂闊さを嘆く。



 相変わらず他人の事を考えれない自分を。





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