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 待ち合わせの場所にはすでに男の子の姿があった。

 その男の子はタキシードを着て…いや男の子がタキシードに着させてもらっていると言うべきか

……取りあえずその服装は全く似合ってない。



 男の子は私に気付くと小さく呻いた。

「その格好で着たのかよ………」

「せっかく高級レストランに行くんだから、それなりの格好で行かないとね」

 私は一回転してから、ウインクをする。

 もちろん着ている服は縁起が良い例のドレス。



「そのドレス目のやり場に困るんだけどな………」

「あら、馬子にも衣装なんだから平気じゃないの?」

 そう言って私は歩き出そうとする。その時―――



「きゃっ!?」

「よっ、と」

 私がバランス崩してこけそうになるのを、あいつが素早く前に出て私を受け止める。

「何やってんだよ?」

「う、うるさいわね! ヒールには慣れてないのよ!!」

 事故とはいえあいつに抱きついてしまった動揺を悟られないため、私は怒ったフリをする。

「じゃあ履いてくるなよな…ほら」

 あいつは私の方を見ずに肘を突き出してくる。

「えっ?」

「こ、この格好で手を繋ぐとおかしいというか、不自然だろ!?

 き、今日だけだからな!!」

「……し、仕方ないわねー」

 私は恐る恐る腕をあいつの突き出した腕に絡める。



 でもね、あいつも分かってると思うけど二人とも顔を赤くして、目を合わせずに歩いてる時点で不自然よ。

 だけど私達はそんなことを口にも出さず歩いていく。



 今、この時間を惜しむようにゆっくりと。





〜 f i n 〜   






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