「でどうなのよ?」

 私がシンに御返杯しつつ尋ねる。

「どうって言われてもな〜複雑だな」

 次の話題に明確な主語も述語もなくても理解出来るのは、シンもこの事が気になっていたからに他ならない証拠

「あんた以上に私は複雑よ。姉から義母にランクアップの危機なのよ?」

 シンが私の言葉に笑いそうになるのを、お酒を呑んで誤魔化すのが分かった。

 シンからしたら飛躍した話なのかもしれないけど、恋した時のエネルギーの凄さをこの鈍感男は全く分かっていないのだ



「あんた少しは真剣になりなさいよね」

 そう言って私はお酒を一気に飲み干し、杯をシンの前へと突きつける。

「真剣ってな〜だいたい初恋は実らないものだろう?」

 シンは苦笑を浮かべつつも目の前にある杯に酒を注ぐ。

 私はそれを聞いて少しの間、シンの方を見やる。

 まるで古今東西それが世の中の真理、と言わんばかりのシンの自身満々な返答に、私もそれもそうだと思い直す。



 そもそもつかさがれいを年の離れた可愛い甥としてしか見ていない。

 態度もそうだが、何より呼び方が『君』付け。

 恐らくは意識はしてないんだろうけど、つかさの中で未だに『ちゃん』付けする男は一人だけなんだろう

 逆に言えばつかさがれいを『ちゃん』付けしたら、真剣に考えるべきという事を指しているんだけど………

 こればっかりはどうやら今のところ静観するしか手がないらしい



「そういやかがみさまの初恋はどうだったんだ?」

 やや据わった目と共ににやけた顔でこっちを見てくるシン。

 言い方といい態度といい完全に私をからかってる。

 どうやらアルコールの影響で、生来のからかい癖が顔を覗かせ始めたらしい

「あら、聞いたら嫉妬の炎があんたの身を焦がす事になるわよ?」

 私も負けじと挑発的な笑みで返す。

 どうやら私もそうとうアルコールが体全体に回ってるらしく、辺りがぼやっと見える。

 ただそんな状態でもシンの姿はちゃんと見えてるんだから、凄いというか、なんというか、自分でも呆れるばかり



「よーし…それじゃ………」

「どうしたの?」

 私の疑問にシンは酒瓶を振って答える。

 どうやら水入りならぬ、お酒切れの様だ。



「じゃあ話の続きは部屋ね」

「そう来ないとな!」

 残念そうにしてるシンは私の言葉で顔を輝かせ立ち上がる。

 いくら大人になっても、いくら格好良くなっても、ここらへんは丸っきり付き合い始めた時のまま。

 要するに『おこちゃま』



「ちょっと、今日は大掃除なんだから気合い入れすぎないでよ?」

 私は笑いながら寄り添ってる旦那に釘を刺す。

 これで二人共動けなくなったら、本当に親としての立場の危機だ。

 するとシンはいきなり真顔になって一言。

「それはかがみが話す内容しだい、だな」

「あんたねー」

 ったく、酔ってるわね、完全に。

 だから私はこの酔っ払いに言ってやる。

「バーカ、私とあんた以上にロマンチックな話なんてあるわけないじゃない」

「もしあったとしても俺がその上をこれからいってやるさ」

 シンの言葉が終わると同時に噴出す私達。

 悪ノリしてる自覚はあるけど、相手もそうだから全く気にしない。

 というか相手がシンなら気にならない



 良い所も悪い所も分かっていて、同じ歩調で無理せずに歩いて行ける。

 どこの世界を探してもそんな人は一人しかいない

 やっぱり私のパートナーはシン以外には考えられない



 そんな当たり前の事を改めて知る



 毎年この日にシンと二人で呑んで分かる事。



 そして私はきっと毎年この日に実家からのお酒を飲む事だろう。



「来年もよろしくね、シン」

「こっちこそ、これからもよろしくなかがみ」



 私の隣を歩いてる人がいる限り





〜 F I N 〜   






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